この秋から来年にかけて、百合好きには嬉しい冊子の出版ラッシュが続く。
かつて百合は見出されるものだった。百合好きは世界に点在する百合をドラゴンボールのように探しまわり収集し集約する探検者だった。しかし今や百合は『ブーム』と呼ばれる過程をすぎて『定着』しつつある。いわば百合というニュアンスを帯びていただけの作品群が、一個のカテゴリ、確立したジャンルとして認識されるようになった。かつては専門誌にしか見出すことのできなかった百合が、現在では一般誌の漫画ジャンルのひとつとして、例えばスポーツ漫画や歴史漫画といったようなジャンルに並び経つ専門要素のひとつとして漫画雑誌に必ずといっていいほどの比率で掲載されるようになった。しかもそれらは他のカテゴリの作品群を圧倒し、けん引し、再び集約されるようになりつつある。
かつて涙ながらに見送られた「ひらり、」のような良質なアンソロジーの生み出された当時と現代では百合を支える出版事情も大きく異なる。百合は本当に求められているのか? といったか細い糸をたどるような手探りのうちに見出された集約とは異なるのだ。現状、百合ジャンルは確実に一定数のファンを得られるものとしてその地位を確立しつある。まとめて紹介しよう。
10月18日 玄光社発行『百合の世界入門』
百合作品を愛する皆さんも、これから出会う方にも読んで欲しい1冊。
百合(ゆり/女の子同士の特別な関係)を題材にした作品、百合の要素を含む作品が昨今、隆盛の兆しを見せています。(中略)百合作品を愛する皆さんにとっても、新しい世界に触れる機会となることを願っております。(表紙折り返しより)
表紙を飾るのは仲谷鳰先生。
巻頭特集に百合好きの声優・橘田いずみさんが選ぶ『表紙が良かった百合漫画ベスト8』。
また『描き下ろしイラスト& 特別インタビュー』では仲谷鳰先生、缶乃先生、くずしろ先生、森永みるく先生、玄鉄絢先生といった新進気鋭の作家から百合界の重鎮など、百合好きなら誰もが注目している作家陣をフォーカス。なんと、網羅されている百合作品は140点以上!
入門書と銘打っているだけあって初心者向けの百合用語解説や、著名人による「おすすめする百合要素を含む作品」なども収録。ヴィレッジヴァンガード池袋マルイ店で2016年2月に開催され大好評を博し、その後大阪の梅田ロフト店で開催された『百合展』のレポートも収録されている。
また発売を記念して下記書店ではオリジナル特典がつく。アンソロジーや単行本では珍しくないがムック本での店頭特典は貴重だ。数に限りがあるので、無くなり次第特典の配布は終了される。また一部店舗では取り扱いがない場合もある。お目当ての特典がある人は細かくチェックしてみよう。
メロンブックス:仲谷鳰 クリアファイル
とらのあな:玄鉄絢 クリアファイル
アニメイト:缶乃 イラストカード
アニメガ・文教堂 くずしろ イラストカード
COMIC ZIN 森永みるく
ヴィレッジヴァンガード吉祥寺 仲谷鳰 「百合の世界入門」表紙(ミニ本風)ポストカード
(敬称略)
「電撃大王」編集部より『エクレア あなたに響く百合アンソロジー』制作決定
11月26日発売予定の百合アンソロジー「エクレア」は「電撃大王」編集部による刊行。
『やがて君になる』が好評連載中の「電撃大王」編集部が本気で作りあげる百合アンソロジー「エクレア」が制作決定です!
表紙は先述の「百合の世界入門」でも表紙を飾った仲谷鳰先生! 現在の百合カルチャーの一端を確実に担っている旗手である。その仲谷先生の『やがて君になる』第3巻と同日発売であることも特記すべきだろう。上記のテキストからも制作側の本気度が伺える。作家陣は以下の通りだ。
仲谷 鳰/天野しゅにんた/伊咲ウタ/伊藤ハチ/にしお栞/ハルミチヒロ/平尾アウリ/めきめき/ほか総勢19名(敬称略)
百合好きには堪らない布陣だ。なお、アンソロジーでは表紙に描かれた仲谷先生のキャラクター二人による新作短編も収録されるというから胸が躍る。上記以外の執筆作家陣は、今後「電撃大王」公式Twitterで公開されていく模様だ。
作家支援サイトを活用した新しい百合コンテンツ「ガレット」創刊
「Enty」というサービスをご存知だろうか? 読者と作家を直接つなぐソーシャルサービスで、登録すると、読み手がパトロンとなり気に入った作家に個人支援ができるようになる。作家側からみれば、個人作家がパトロン・サポーター(支援者)を募集できるというしくみだ。現在、クリエイターから徐々に注目を集めている。その「Enty」を利用した自主制作百合コミック誌が創刊される。タイトルは『ガレット』。発刊は2017年2月12日を予定。電子配信(Kindleのみ)も予定されており、年4回コミティアで発行予定の季刊誌だ。販売先は即売会、Amazon、書店委託、Enty特典など。出版社に依らない百合好きの百合好きによる百合好きのためのコンテンツであることが伺える。テーマは下記の通り。
上質で新しい百合コンテンツを定期的にお届け。安定供給できるようにEntyでご支援を募っております。売上・支援金は作家様の稿料に直接反映されます。
重要なのは「安定供給」とある点だ。百合好きなら誰もが知っているように、百合アンソロジーのデメリットはその寿命を延伸しにくい点にある。これは百合好きの厄介な性質でもあるが、百合好きは「This is 百合」と示されると目をそらしてしまう。自ら「見出した百合」を愛好する傾向があるのだ。そのため「百合姫」のような商業誌での存続はよほどのロングセラー作品を秘蔵していない限り儚く散ってしまう。その脆弱性を正面から見据えて存続と安定供給を目指したこの画期的なアンソロジーは、「出版社」という形態から脱却をしている意味でも全く新しいコンテンツとなりうる可能性も秘めている。
肝心の参加作家だが、自主制作と侮るなかれ。
橘田いずみ×百乃モト/袴田めら/天野しゅにんた/竹宮ジン/大朋めがね/四ツ原フリコ/菅田うり/寄田みゆき/やとさきはる/浜野りんご/明日部結衣/宇野ジニア
スペシャルゲスト:陽
フォト:高橋みのり
イラストレーション:pen・数佳
(敬称略)
商業誌でも活躍している無敵の百合作家陣だ。これは大いに期待できる。
百合出版の未来は?
もはや百合は一定数の支持者がいることを前提とされて打ちだされたカテゴリとなりつつある。
しかしそれは「要素」として希釈され汎用化されるような流れではない。勢いがある。百合は淘汰されたわけではなかった。進化した。一般漫画のなかにあって百合コンテンツはよりそのエッセンスの濃度を高めて定住の地を求め我々のもとに帰還したのだ。熱がこもりすぎて、もはや何を言っているのかわからないのでここまでにしよう。蛇足ながら、当該記事を作成した記者も『百合の世界入門』に寄稿させて頂いている。今後の百合の将来とあわせて注目して頂ければ幸いだ。
画像素材:足成
http://www.ashinari.com/ 【リンク】
百合の世界入門
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=11367 【リンク】
「百合の世界入門」特典情報!!
http://www.genkosha.co.jp/news/index.php?id=20161003140000&cat=news 【リンク】
月刊コミック電撃大王 『エクレア あなたに響く百合アンソロジー』制作決定!
http://daioh.dengeki.com/blog/info/%E3%80%8E%E3%82%A8%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%82%A2-%E3%81%82%E3%81%AA%E3%81%9F%E3%81%AB%E9%9F%BF%E3%81%8F%E7%99%BE%E5%90%88%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%80%8F%E5%88%B6%E4%BD%9C/ 【リンク】
電撃大王公式ツイッター
https://twitter.com/dengeki_daioh 【リンク】
百合コミック誌「ガレット」 公式サイト
http://galetteweb.com/ 【リンク】
池袋マルイ『百合展2016』で百合を拝もう! ~終電には加瀬さんの妹は天使~ http://getnews.jp/archives/1411051 【リンク】
―― 見たことのないものを見に行こう 『ガジェット通信』
(執筆者: 小雨) ※あなたもガジェット通信で文章を執筆してみませんか
コメント
コメントを書く(ID:43969644)
同性愛の「背徳感」があるからこそ「秘め事」としてドキドキする。
ひそやかに、ひっそりと咲くからこそ狂おしいほどに美しい。
市民権なんて得たら、洋物のアダルトビデオのように風情も何もあったもんではない。
…質、量ともに増えるのは大歓迎です(キリッ
(ID:39550659)
日常系の延長の「女の子同士がちょっと過剰に仲良くしてる」って感じの百合はたしかにここ数年山のように増えたが
それこそ百合姫で長期連載持てるレベルの「同性愛にちゃんと向き合っている」百合漫画をしっかり描き切れる層は昔と比べてもほとんど増えていない
ブームと言ってもまだ美少女だらけの日常系の延長線なんだよね
どっちが良いというわけでもないし、自分もどっちもいける口だけども、「恋愛感情」と「それに伴う壁」をしっかり突き詰めて百合作品を描ける作者さんがもっと増えてくれると嬉しい
(ID:6544733)
確かに書かれているように、新たな動きも出てきて、「百合」が注目を集めつつあるのは事実だと思っています。
そして、一般誌でも、かつては扱いづらい言葉と敬遠されていた「百合」を正面から謳った作品も確実に増えていますが、その一方で、西尾雄太先生の「アフターアワーズ」の単行本第1巻の売り上げが少ないため第2巻が出ないとか、森永みるく先生の「ハナとヒナは放課後」が第3巻分で事実上「打ち切り」になったり、ラノベのあらおし悠先生や上田ながの先生などの「二次ドリ文庫」での百合作品も他のジャンルに比べて苦戦が言われていたりと、「百合」が本当に定着し、売れるジャンルになったとは私には到底思えないのが正直なところで、記事はあまりに楽観過ぎるように感じました。
まあ、この盛り上がりを単なる徒花で終わらせるか、本当の満開につなぐことができるのかは、ここ数ヶ月で「百合ファン」に「購買力がある」ことを実際に示せるかに掛かっていると思っています。
本番はこれからです。