梅田望夫『ウェブ時代をゆく』は気持ちいい本である。タイトル通り、ベストセラー『ウェブ進化論』の続編であり、「ウェブ時代」ともいえる現代における働き方、学び方について記した一冊だ。といっても、よくあるビジネス書や自己啓発書の類とはひと味もふた味も違う。
著者は現代を「江戸から明治に匹敵する「時代の大きな変わり目」」として捉え、その変革の時代でどのようにして生きていけばいいのか、読者に対し助言する。
おそらくこの作品の読者として想定されているのは二十代、三十代の若者であろう。困難な時代を生きることになった若者たちに対する著者のまなざしはあたたかく、その言葉は力強い激励に満ちている。
著者が現代を生きるための重要なキーワードとして持ち出すのが、将棋の羽生善治二冠の有名な「高速道路論」である。これは、ネットが発達した現代においてはさまざまなジャンルで学習の「高速道路」が敷かれているようなものだという話で、しかしその「高速道路」の果てには大渋滞が起きている、と続く。
つまり、何を選ぶにしろ現代ではそのジャンルの高速道路が整備されているから、ある程度のところまで学ぶことは容易である。しかし、もしその「高速道路」の向こうにある生き方を選ぼうと思ったら、そこでは大渋滞が起きているから、それを抜け出すことはたやすくはない、という意味だ。
「高速道路」の向こうにある生き方とは、つまり、自分の才能を活かし、技術を極め、そのジャンルの一流のプロフェッショナルとして生きていくという選択肢だ。当然、この生き方を選べるひとは多くない。大渋滞を抜け出すことは容易ではなく、それこそ羽生のような生まれつきの天才以外には叶わない険しい生き方であるかもしれない。
それなら、結局、「高速道路」が整備されたとはいっても、ぼくたちのような凡庸な人間にとってはあまり関係がないことなのだろうか。最後には大渋滞にひっかかるのだから、ネットを活用してプロフェッショナルになることは無理な望みなのだろうか。
そうではない、と著者はいう。選ばれた少数派が生きる「高速道路の向こう側」にたどり着くことができなかった者にも、もうひとつの道がある。著者はその道を「けものみち」と呼ぶ。「けものみち」とは、つまり高速道路を通して得た能力を活用し、その道の専門家ではないやり方で生きていくあらゆる生き方の総称である。
著者によると「一言で言えば「けものみち」とは、高速道路を疾走するのに比べると、まあ何でもありの世界である。好きなこと、やりたいこと、やりたくなくてもできることを組み合わせ、ときに組織に属するもよし、属さぬもよし、人とのさまざまな出会いを大切にしながら、「個としてのストーリー」を組み立て、何とかゴチャゴチャと生きていく世界だ。」ということになる。
ようするにどのような形であれお金を稼げて生きていければよしとする生き方、それが「けものみち」だろう。
それでは、この「けものみち」を駆け抜けるためにはどのような能力が必要とされるのだろうか。著者は積極性、勇気、スピード感、常識、行動力、情報収集力、コミュニティ・リーダーシップ、やさしさ、柔軟性などを挙げている。
そしてこれらは「人間としてごく常識的で、少し積極的に日常を丁寧に生きること」であるともいう。つまるところ、ひととしてあたりまえの能力をそれなりに高い水準でもっているひとが「けものみち」に向いている、といえる。
そして「高速道路」を疾走するにせよ、「けものみち」に降りるにせよ、何より必要とされるものはネットを活用する力と、そして「勤勉さ」であるという。そのジャンルに対しどこまでも勤勉で熱心なものが最終的には勝利する。
しかし、この著者が勤勉さと呼ぶ概念を、従来の粛々と義務をこなす能力としてイメージすることは間違えている。ここでいう勤勉さとは、学習と労働をむしろ楽しむべき権利として行使する能力のことである。ようするに「楽しいからやる」を究めること。ひたすらに自分の好きなことに集中すること。
好きなことだけをやって生きていくなどというと、いかにも甘ったれた、子供じみた考え方であるようにも思えるかもしれない。しかし、そうではない、むしろこれからの時代、好きなことを選ぶことは重要なサバイバル戦略の一環である。
自分のストロングポイントで勝負する生き方が許される時代になってきているのだ。いや、そうではなくむしろ、自分のストロングポイントで勝負しなくては生きのこれない時代というべきか。
自分の好みと能力がどのようなものであるのかを知り、それならば何ができるのかと考え、そしてサバイバル戦略を立てて「ひとりで生きていく」覚悟を決めて実行する能力、それがこれからの時代を生き抜くためにはどうしても必要だ。
ぼくは個人としては「高速道路の向こう側」を目指す生き方よりも、「けものみち」のほうに惹かれる。ネットを活用してぼくのもつあらゆる能力をマネタイズしながら生きていければ素晴らしいな、と思う。ぼくはインターネットで情報をマネタイズすることは可能だ、と思っているのだ。
イケダハヤト氏が会社組織を離れ「ノマドワーカー」になってから収入は600万円程度にまで倍増したと書いているが(http://diamond.jp/articles/-/24936)、かれを幸福な例外として考える必要は必ずしもない。
ぼくがこのブロマガを始めてからほぼ一ヶ月が過ぎた。その経験を通じてインターネットにおけるマネタイズは不可能ではないと実感した。このブロマガはじっさいに一定の収益を上げているのだ。
もちろん、まだ大した金額ではないが、何しろ定期的に増えていってめったに減らないから、そのうち「労働の収入」というにふさわしいくらいの金額にはなるだろう。こういうふうにしてネットでお金を稼ぐことは、将来的にはそうむずかしいことではなくなっていくはずだ。何しろぼくにできるのだから、だれにだってできそうなものだ。
ネットを学習に仕事に活用しながら、ひたすらに好きなことに没頭して生きる。それは必ずしも「高速道路の向こう側」にたどり着いた一部のセンスエリートのための生き方ではない。
ただし、世の中のマネーの大半はまだリアルワールドに存在しているから、リアルワールドを無視する必要はない。せいぜいこの世界を活用しよう。ネットをリアルの対立項のように捉えそこにひきこもるのではなく、それを「拡張されたもうひとつの世界」と受け止めてリアルとともに活用すること。「けものみち」を走りぬくためには、そんな知恵が必要とされるようだ。
あなたもネットを活用し「けものみち」を生きてみませんか? 意外と新しい展望が拓けてきたりするかもしれませんよ。
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海燕
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