いったい何者が、あんな高地に町を造ろうなどと考えたのだろう! あそこは雨さえ降らない。何しろ雲ははるか下のほうを流れているのだから。それはともかく、あなたが手を真っ赤にしてよじ登り、もう一歩というところまで来たとき、いきなり上から空き瓶の雨が降ってきた。あとからあとから、きりもなく落ちてくるので、あなたは陶器やガラスの空き瓶のなだれに巻きこまれ、振りだしの麓まで戻ってしまった。「なんてことだ!」ガラス瓶の山から這いでてきた一人の司祭があなたに話しかけて言った。「あの連中は酒を飲むことしか考えない。あの市はどこもかしこも、プルケ酒や、チチャ酒や、スペインの酒であふれ返っている。山と積まれたその瓶が、とうとう崩れだしたというわけだ。ああ! やっとの思いであそこまでたどり着いたのに、また登らなければならん。じつに情けない話だ!」
傑作だ。傑作だと思う。高橋源一郎はこの本の帯で次のように絶賛している。
「マルケスの『百年の孤独』を凌駕する作品」。未知の巨大な長編小説が出現する度に、このフレーズは繰り返し使われてきた。だが、それが単なる宣伝文句にすぎないことをぼくはよく知っていた。なぜなら、そのフレーズにふさわしい作品はレイナルド・アレナスの『めくるめく世界』だけだからである。
多少誇張した面もあるにせよ、ひとつの文学作品に対して最大限の賛辞と言っていいだろう。じっさいにこの本を読み終えたいま、ぼくはこの賛辞が単なるサービスではないことを実感している。この小説はまさに驚異的な傑作であり、おどろくべき想像力の結晶である。ていうか、めちゃくちゃおもしろいよ、この本。
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