日常に安住する価値、非日常を渇望する価値。幸せなのはどちらなのか。(2071文字)
異世界の赤ん坊に生まれ変わった主人公が少しずつ成長していく展開を描いてゆく。と、ここだけ抜き出すと『無職転生』あたりと同じなのだが、この作品には端的な特徴がひとつあって、主人公の成長がものすごく遅い。
具体的に云うと、最初の最初の何十話かは幼児、いや乳児のまま(笑)。もちろん、主人公には意識があって、状況を把握しているのだけれど、それにしてもまったく話が進展しない。
ぼくはそこまで読んでいないが、200話を過ぎてもまだ幼児のままらしい。ここまで来るといっそ凄まじい話である。
もちろん、なろうにはほかにも展開が遅い話がある。『盾の勇者の成り上がり』あたりはなかなか話が進展しない。
しかし、それでもとにかく冒険はしているわけだから、『そだ☆シス』と比べるとかなりあたりまえの話だと云える。
それでは、そんな『そだ☆シス』のどこに魅力があるのか。……どこだろう? いや、読んでいるとたしかにおもしろいのだが、具体的にどこがどうと云う気にはなれない。
何しろこの話、波瀾万丈とは限りなく縁遠い。ひたすらに平和で、平穏で、幸福な日々がつづく。それはもう、日常系萌え四コマ漫画を思わせる平和さ。
決して時間が停止しているわけではなく、少しずつ時は流れていくのだが、しかしそこに世界が崩壊する不安はない。
きのうは当然のようにきょうへと続き、そのきょうはさらにあしたへと繋がっている、その連続性に対する絶対的な信頼が存在すると云えばいいだろうか。
それはあたりまえの平和な日常が続いていてもどこか滑落の不安と無縁ではない『無職転生』とは対照的だ。
もちろん、それが『無職転生』の魅力であり、どちらがどう優れているの劣っているのという話ではないのだが、てれびん(@terebinn)あたりはここに価値観の違いを見て取るらしい。
『無職転生』は平和なだけでは完結しない物語なのだ。どうしても、どこかで非日常をくぐり抜け、そこで冒険し、戦い、勝利しなければ終わらない。
それはもちろん、平和で幸福な生活が崩れ去る不安と紙一重だ。だからこそ物語としておもしろいのだが、『無職転生』には「絶対的な安心」は存在しない。
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