荒川弘は『アルスラーン戦記』をどのようにして生まれ変わらせたか。(2103文字)
第一話の時点ではかなり奔放に原作をいじりまわしていたので、さてどう出るかと思っていたのですが、この第二話を見ると予想以上に原作に忠実に描いていますね。
パルス王国の万騎長にして「戦士のなかの戦士」であるダリューンがアンドラゴラス王の怒りを買い地位を失うくだりも、その後のアトロパテネの野の会戦におけるパルス軍の惨敗も、その惨劇を裏切り者のカーラーンがひき起こしていることも、すべて原作通り。
非常に原作を尊重して書いているように思います。
もちろん、所々に荒川さんならではのアレンジは加わっていて、たとえばアルスラーンを含むパルス軍がこれから進む先から飛んできた鷹の羽根が湿っていたから雨になる、といった描写は漫画オリジナルのものです。
原作ではもう少しあとになってから出てくる鷹のアズライールをこういうふうに使うあたり、さすがですね。
物語はこの第一話で、原作の第一章「アトロパテネ会戦」の途中まで進んでいます。この「アトロパテネの戦い」によって、大陸の雄であるパルス王国軍は侵略者ルシタニア軍に敗れ去り、主人公アルスラーン王太子は騎士ダリューンとともにわずか二騎、戦場を落ちのびることになるのです。
対するルシタニア軍はこのとき約三十万人。三十万対二! この絶望的ともいえるシチュエーションから、『アルスラーン戦記』は奇跡の逆転劇を描いていくことになります。
いかにも華奢で頼りないアルスラーンがこれからどのようにして試練を乗り越え、一人前の男、そしてパルスを統べる王に育っていくのか、原作を読んでいる人間はもう知っているわけですが、それでもこの漫画版には胸が踊る。
おそらく荒川さんは原作のプロットを変えることなく、アルスラーンの成長をより少年漫画的に演出してくるのではないかと思います。
まだ見ぬギーヴ、ナルサス、ファランギース、ヒルメスといったキャラクターたちの登場も待ち遠しいですし、いやあ、良い企画ですね。
原作のほうの『アルスラーン戦記』は完結までのこすところ三冊というところまで来ているのですが、そのわずか三冊が実に遠い。はたして生きて完結を見ることができるのかどうか、はっきりしません。
おそらく現代の最も完結が待ち望まれている小説のひとつでしょう。
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