相田裕『GUNSLINGER GIRL』は少女と銃の物語だ。作中、年端もいかない子供たちが不釣りあいに重々しい銃をかまえる場面が頻出する。一歩間違えれば悪趣味きわまりないロリータ描写。しかし、作者は繊細な心づかいで作品全体を装飾してのけた。
結果、生まれたものは可憐で異様な奇形の世界だ。ぼくは初め、その歪んだかたちに違和を禁じえなかった。批判というほど強い想いはない。ただ、何かが狂っているように思えてならなかったのだ。畢竟、児童虐待と搾取の物語なのに、いかにも美しく切ない話のように読めてしまう、そこに何か欺瞞がひそんでいるように思えて仕方なかった。
しかし、全巻を読み終えたいま、その違和は煙と消え、心から展開に満足している。たしかにこれは少女と銃の物語だが、それだけのものではない。物語は中盤からいっきに加速し、読者を遠いところまで連れてゆく。
これはつまり「希望」の話だったのだ。はてしなく続く殺戮と復讐、テロルと戦争のくり返しのなかで、それでも懸命に希望を追い求める人々の物語。
作中のイタリアは凶悪なテロリストと腐敗した政府の対立が続く国だが、そのなかでも人々は希望を見失わない。そこにはたしかに欺瞞があり、虚飾がある。しかし、その偽りを超えて心にとどくものがある。美しくも醜く、気高くも愚かしい人間の真実。
ひとはひたすらに高貴であることはできず、そうかといって卑小なだけのものでもない。その合間のどこかで生きている。『GUNSLINGER GIRL』はそんな人々の姿を巧みに描いているのだ。素晴らしい。この作品が十年をかけてここまでたどり着いたことはひとつの脅威だ。
始まった頃はいくらか読みづらく、ただセンチメンタルなだけにも思えたエピソードのひとつひとつが、最後にはみごとな連環を成し、壮大なテーマを演出する。こういう作品を読むためにこそぼくは漫画を読むのだと思う。
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