弱いなら弱いままで。

「SF作家」瀬名秀明、未来を語る。(2602文字)

2013/05/23 13:44 投稿

  • タグ:
  • 小説
  • 瀬名秀明
SF作家 瀬名秀明が説く!  さあ今から未来についてはなそう

 『SF作家瀬名秀明が説く! さあ今から未来についてついてはなそう』。本書は作家の瀬名秀明が若い読者に向け「未来」について語った一冊である。

 もともとは各所で行った講演をまとめ、加筆修正したものらしい。しかし、その内容には一貫性があり、なおかつ面白い。そう、瀬名のノンフィクションはいつもスリリングで面白いのだ。

 その内容は平明なものからそれなりに難解なものまで様々だが、いままでかれの書いたものを読んでまるで面白くないと感じたことは一度もない。瀬名の著書を読むことは、ぼくにとっていつだって知的に興奮させられる体験だ。

 瀬名秀明の名前を知らない方も、ベストセラーになった『パラサイト・イヴ』のことはご存知だろう。この作品は瀬名のデビュー作で、かれの作家としてのキャリアの端緒である。

 瀬名の近作には近作には『デカルトの密室』、『希望』などがある。かれの作品は後になるほど難解になってゆく傾向があり、ぼくは『デカルトの密室』はまだしも、『希望』はほとんど理解し切れなかった。

 ただ、理解できないながらも圧倒されるような「何か」を感じ取れたので、やはり瀬名秀明はすごい作家なのだと思う。あるいはぼくの頭が悪すぎるだけかもしれないが。

 とにかく瀬名は作家としても、あるいはノンフィクションライターとしても、ぼくにとって注目に値する人物なのである。その瀬名が『さあ今から未来についてはなそう』というタイトルで書いた本なのだから、これはもう、とても面白いに決まっている。

 本書のなかで、瀬名は科学とSFと未来について語っている。過去のさまざまなSF小説を引用しつつ、ときにその限界について語り、あるいはその魅力を解き明かし、縦横無尽に「未来」について話している。

 瀬名はこの本のなかでSFという言葉に強いこだわりを見せているように思える。ここではくわしくは語らないが、瀬名とSFのあいだにはいくつかの不幸なすれ違いがあり、必ずしも関係は良くなかったように見える。

 それにもかかわらず、瀬名はSFの想像力を高く評価し、SF業界のために貢献しようとしているように見える。そこにはかれなりの何かしらの思い入れがあるのだろう。

 面白いのは、瀬名が取り上げる作品のバラエティの豊かさである。瀬名は「コアなSFファン以外だれが読むのだろう?」というような作品も、よりメジャーな作品も、特に区別することなく取り上げている。

 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』と『ドラえもん のび太の鉄人兵団』を同じ文脈のなかで引用しつつ語るひとは少ないだろう。しかし、瀬名にとっては同様にロボットSFのイマジネーションを示す作品であるらしいのである。

 そこには権威的なバイアスのないまなざしがあり、ぼくは好感を抱く。瀬名が物語や科学にそそぐ視線はどこまでも少年のものであり、ぼくはその視線に強い共感を抱くのだ。

 「はじめに」によると、本書は2013年のSF作家クラブ50周年に合わせて企画された本であるらしい。

 瀬名は書く。

 

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