天才作家が描く「日常系」。吉田秋生『群青』に別格の凄みを感じる。(1672文字)
ひと言、素晴らしい。素晴らしすぎて言葉も出ないとはこのことだ。吉田秋生はそもそも不世出の天才的な作家である。そんなことは知っている。しかし、それにしてもこのクオリティのものを続けざまに見せられると、もう、うなることしできない。何という作家であり、何という作品であることか。
一見して、派手な漫画ではない。むしろ見た目は「どこにでもある」平凡な作品にすら見えるかもしれない。しかし、その実、これほど切実にひとの心に迫ってくる作品はそうあるものではないだろう。美しい、そして切ない物語である。
現代の鎌倉を部隊に、看護婦の長女を初めとする四人姉妹の何気ない淡々と日常を描いているだけなのに、こうも心を揺らすのはなぜなのだろう。登場人物はかつての傑作『LOVERS KISS』とわずかに重なりあっている。そこらへんを楽しむのもいいかもしれない。
とにかく胸に迫る一作であり、吉田秋生の長いキャリアのなかでも最もリリカルでセンチメンタルな作品のひとつだと思う(吉田作品をすべて読んでいるわけではないが……)。
それにしても『細雪』といい『若草物語』といい、ついでに『じゃじゃ馬グルーミングアップ』といい、どうして姉妹というと四人なんだろうね。四人兄弟の話というと『創竜伝』くらいしか思いつかないというのに。まあいいや。
まったく凄い作品である。特別のサプライズに満ちた展開があるというわけではないし、天才やら大富豪やらはひとりも出てこない。あたりまえの日常の、その優しい静けさのなかで人々が生きていく、そのさまがただ克明に綴られるだけのこと。
それにもかかわらず、実に感動的だ。ゆっくりと過ぎてゆく自然な日常の、その切ないほどの輝き。この作家はそういったものを描き出すことに実に長けている。
それだけなら「よくできた日常系」というあたりに評価が落ち着くかもしれないが、ときにコミカルでユーモラスでもある展開のなかに、静かに入り込んでくる「死」の手ざわりが何ともいえない静謐な雰囲気を生んでいる。
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