『爽年』。しずかに優しく奏でられる生と性のムジーク。
石田衣良の『爽年』を読んだ。前回で紹介した『娼年』の続編で、この連作の完結編だ。
主人公リョウの人間としての成長と、物語のドラマツルギーはほぼ前作までで終わってしまっているので、今回はささやかな後日譚、あるいは黄金のハッピーエンドへつづく長いエピローグといいたいような一冊にしあがっている。
何とも芳醇かつ流麗、しかもすこぶる技巧的な小説で、読み進めることの幸せを目いっぱい味わえる。
作家はだれもが、その技巧の巧拙はともかく、それぞれの文体をもっている。石田衣良のスタイルは、シャープでありながら鋭すぎることなく、古い時代の宮廷音楽さながらの柔らかさを備えていて、やたらに心地よい。美しい川のせせらぎを聴くような静穏な幸福感。
テーマはあくまでセックスだが、この巻ではついにリョウは「性の不可能性」の領域へと足を踏みいれる。
それは、たとえば幼年期に虐待を受けた拒食症の女性の姿を取って
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