田畑 佑樹 のコメント

(一身上の都合により、所謂「新年の挨拶」は省略させていただきます)

 昨年(西暦基準)に出た新譜のうち、私が金を出してフィジカルを購入したのは(手売り規模の新人を除けば)ぺぺ・トルメント・アスカラールの『天使乃恥部』フルパッケージ版のみだったと気づき、我が事ながら意外に思いました。色々なジャンルで優れた新譜を多く聴いたにも拘らず、購入したのは『天使乃恥部』のみだったというのは、「2020年代中盤において2,000円や3,000円の音楽作品はもう売れないが、48,000円なら売れる」という実例を導き出しうるものかもしれず(笑)、先程そのことに思い至って笑いが止まらなくなりました。昨年(西暦基準)に書かれた菊地さんのブロマガで一番好きなパンチラインは「全財産より安いものはない」です。「100万ドル欲しかったら100万ドル使え」とはヴィンス・マクマホンの名言らしいですが、それと全く同じことを謂っていますね(笑)

 実際、今年の紅白歌合戦に関して各出演者たちのファンがソーシャルメディア上に吐き出していた文言を読んでいても、同じことを思いました。従来の「推し活」とは、「自分が好きでたまらないアーティストのために可能な限り多くの時間と所得を割く(ことによって “癒され” たり ”背中押され” たりする)」ものでしたが、今では「自分が好きでたまらないアーティストについて “世間”からの評価を求める」具合の、もはや金銭に関わるものですらない、承認をめぐる闘争のようになっていたからです。そもそもテレビすら持っておらず・紅白歌合戦についても「ぺぺが紅組で出演して『大空位時代』をやっていたら面白いな、AIボーカルが女声だからという理由だけで」と仮想しながら笑う程度にしか興味を持てない私のような人間にとっては、とてもノリきれないものでした。が、いつのまにか「推し活」なるものが「もはや貨幣価値が関わるものですらない場での、別の精神的 “価値” のトレーディング」に移ったらしいことは察せられた気がします。

 2020年代中盤に流通している、あらゆるものの “価値” が、コスパやクーポンや仮想通貨などのあらゆる延命的セコさすらもはや問題としなくなるような、そんな変動が目前に控えているのかもと思わされた年末(西暦基準)でした。新年早々アル・ジャジーラで報道された、「新年を祝うべくレイヴみたいなことをやっているシオニストと/水害と厳寒で病院の衛生状態すら維持できず・なおかつ軍事的攻撃によって殺され続けているパレスティナ民衆」の映像は、もはや「苦しい人々に必要な物資と金銭が届くように」という話ですらない次元に現在の「経済」や「政治」は行っているのだ、という事実を思い起こさせました。菊地さんが今回の日記で軽くふれておられた「沖縄」にまつわる搾取も同様で、日本国内にすら存在するイメージの搾取と具体的支配を菊地さんは20年前から変わらず批判し続けておられたと、『CDは株券ではない』のバックナンバーを読み直して再確認してもおりました。

 以上述べたような、2020年代中盤の全世界を拘束しているように思える「価値」の体系の変動は、必ず音楽の新生と同じタイミングで来るだろうと思います。21世紀版ローリングトゥエンティーズの中頃を迎えて、ここまであらゆる変動の端緒が一挙に揃うことがあるのかと、私自身いままで無いほどに心躍っています。あらゆる人々が自明のままに生きていた拘束が解け、新しい「価値」による旧弊な「経済」の破砕がより多くの人々を生存させる年になるよう祈念しております。

No.10 4日前

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