菊地成孔(著者) のコメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>4

 あれは舟久保固めで良いと思いますし、ご説のように準備していたと思います。僕が見る限り、2回狙っています

 舟久保固めは舟久保遥香と言う天才が開発した、人体工学的に画期的な技というか、実に21世紀的な固め技ですが(腕一本だけで、なるべく体を離しーー横四方とミックスされる場合など、例外もあるけどーーそれで相手が動けなくなってしまう。という、すごく合理的かつマジカルな技ですよね)、開発されてからの歴史が浅く、かけて勝利した本人も「崩れ袈裟固めかどうか自分でもわからない」と発言したりするので笑、審判も崩れ袈裟や肩固めと区別がつかないことが多いです。

 あくまで僕の素人考えですが、他の技だと相手の裾などを持つ手を、相手の道着の中に入れて内側からつかんでひっくり返す。とう、グリップのあり方が舟久保固めのIDだと思い、今回の阿部のグリップは舟久保固めと同形ですし、最終的に固めた形も舟久保固めそのままです。

 ただ、開発者の舟久保遙香が、この技に入る時は概ね横並びで仕掛け、ヘッドロックのように相手の後頭部に回した腕がグリップしたら、相手を転がすように返して、体を離す(離した方が、グリップが純化し、相手が動けないので)、という過程をとるのに対し、今回の阿部は肩車のように、上半身が起きている相手に上からグリップし、それを後ろにダイナミックに倒す(ターンオーヴァーするような形)という、舟久保もおそらく見せた事がない過程でこの技に入ったので、審判は崩れ袈裟固めと判断したと思います。

 何れにせよ、ちょっと間違うと、仕掛けが粘着的で恐ろしく見えがちな舟久保固めを、豪快でダイナミックに(一本勝ちの鮮やかさみたいな味わいを加えて)見せた阿部のセンスは天才的で、顔相が「可愛い」と、アイドル視され、試合後のインタビューで「あれ、自分でもどっちだっからわからないんです〜」とニコニコしている天才舟久保と、「兄弟で同日に金を獲り、柔道の歴史を変える」という阿部の自意識の違いが如実に出たと思います。

No.7 39ヶ月前

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