菊地成孔(著者) のコメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>40

 ありがとうございます!多くの皆さんに「まだまだ進化してるじゃないか、伝統芸能化なんかしてない。もっと続けて欲しい」と言われましたが、確かに演奏スキルとボキャブラリーは、あと1年やれば1年分、あと20年やれば20年分上がると思います。もうハノイはハノイに聴こえないぐらいになるかも知れません。元老院も1人も残っていないかも知れない。

 しかし、僕がいう「伝統芸能化」というのは、演目が変わらないという点にあって、ぺぺも若干そういうところがあるんですが、ぺぺはポツリポツリと新曲が挟み込まれていますし、何より、演目が変わらないこと、がぺぺの音楽性の良さと直結しているのに対し(ぺぺは全員が老人になっても、あるいは、老人になった方が良いぐらいの音楽です)、DC/PRGは、スキリングの熟達よりも、全く新しい楽曲や、新しい演奏方法によって、常にメンバーが若く、全員のスキルがいっぱいいっぱいの状態で起こす混沌が必須になります。なにせ解散パーティーのセットリストは1も2も、2年前の20周年記念ツアーと一切変わっていないし、ソロの打順も全く同じです。一応書き換えましたが、そのまま使えるぐらいなんですね。

 より緻密な計画、より多くの失策がより深いカオスを生み出す訳で、僕は現在のメンバーは最強ですが、彼らにカオスを生じさせるような状態が、自分ではもう作れないと判断しました。何より彼らの多くは、音楽を始めた時からDC/PRGがあったのに対し(ドラムスの秋元は最年少ですが、入団時から全曲を覚えていました)、結成時から最初の解散までは、「この世にこんな音楽はない」という状態で始めた初期衝動に満ち満ちていました。露骨に言えば、音楽の全体像、その意味を理解しているメンバーがいないまま、僕はステージに乗せてしまいました。

 DC/PRGには「初期派」と呼ばれる、2001〜2007年(最初の解散)までの活動を支持する人々もおり、僕はその人々を蒙昧な懐古主義者と一刀には断ぜません。元老院の3人ですら、最初は「何が起こっているのかわからない」と言っていたんです。「何のゲームかわからないままゲームを続ける」という前衛的迫力は、もう現在のチームからは失われてしまいました。最初「全く意味がわからない。何なんですかこれは?」と言っていた大村くんも、あっという間に楽曲の構造を理解しました。世界全体のリテラシーが上がったんです。

 元老院に送る最後の「意味わからない」が、指人形にされること。だったのは言うまでもありません。僕はいたずらに難しいのがえらいと思っているのではなく(それはプログレです)、「いつか誰もが、これをスポーツのように理解するようになる」と思いながら無理解と理解の海を航海する事に意味を見出していますし、遺伝子が撒き散らされる事も重要です。しかし、解散しない限り「あれはデートコースのマネ」というネガティヴジャッジングは無くならないでしょう。後継の音楽家たちに、つまらぬ抵抗値を維持しないためにも、完全に終了することが重要だと思いました。ライブに参加して頂き、ありがとうございました。また箱舟を造船しますので、今後もヨロシクお願いいたします。

No.43 44ヶ月前

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