菊地成孔(著者) のコメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>44

 お若い方からの貴重なご意見ありがとうございます。まず最初に、長文であることは(挨拶のようなレベルだと思いますが)礼を失するということはありません。僕も長文ですし。


 <SNSでは、特にTwitterでは、当事者の声が圧倒的に力を持っていると、また、非当事者が発言をする際には、例えば専門家の意見を聞いたというエクスキューズをつけてというように、繊細さが要求される時代であると感じています>

 ↑ もちろんです。これはTwitterのコミュニュケーションに限ったことではないと思います。「繊細さ」の度合いは、メディアや形式によって左右されるとは思いますが。


 <菊地さんは町山さんへの一連のツイートの中で、町山さんのアイデンティティ、そして病気について、非当事者として発言をなさっていると思います>

 ↑ これは後述します。


 <前者に関しては発言の前置きとして、大久保に住んでいたことや、大韓民国の移民の友人がいらっしゃること、映画や音楽を紹介し続けてきたことなどをあげられていました。まさに『欧米休憩タイム』と『韓流最高会議』は私にとって隣国に関心を持つきっかけとなりました。数年前から活動を追いかけている新参者ですが、Twitterの方々が言うように菊地さんがレイシストというのはさすがにありえないだろうと思います>

 ↑ ご理解ありがとうございます。僕は大韓民国人、在日コリアンの双方、だけでなく、アフロアメリカン、アングロサクソン、キューバ系の合衆国移民、在北米ヒスパニック、ブラジル人、アルゼンチン人、ドイツ人、フランス人、中国人、マレーシア人、インド人に友人がおり、また、これは合衆国で「エセリベラル」を断罪するクリシェである「俺は黒人の友達がいる(I have black friends)」という話をしているつもりではありません。音楽家の繋がりは(列記者は全員音楽家です)それこそ「音楽家という当事者」にしかわからない繋がりがあり、「I have black friends」の由来となるような「オフィスに外人がいて、適度に付き合っている」といったレベルのものではありません。また、もし僕の友人が全員日本人だとしても、僕は己の胸に手を当てて考えるに、レイシズムは持っていません。

 ただ、僕自身が民族被差別者ではないのは間違いない事実なので、「当事者」とは言えません。ですので前述の「例えば専門家の意見を聞いたというエクスキューズをつけてというように、繊細さが要求」という箇所をクリアしている、と、あなたが査定くださっている。と理解します。


<とはいえ、Twitterは、たった一つのツイートで、あるいは一つの単語で一つの属性で判断が下され、経歴や意図を無視した非難やレッテル貼りが蔓延る場所であり、2回目のツイートまでの炎上も、いつものことだなと思ってスマホを眺めていました。>

 ↑ はい。

 <けれども、3回目のツイートは繊細さを欠いたものであると思います。ADHDという単語に、属性に、まるでTwitter使用者のように(実際期間限定の使用者ではいらっしゃいますが) 、引っ張られすぎているように思います。 まだ可能性の段階で、相手の持ち出していない属性をわざわざ突くのはいささかナンセンスではないでしょうか。>

 ↑ このご指摘には反駁せざるを得ません。第一に町山さんはご自分でカムアウトなさって掲げており、隠しているのに暴いたとか、噂のレベルの事を断定的に指摘したわけではなく、つまり町山さんは<持ち出している。と考えます。

 そして、僕のツイートをお読みいただければお分かりの通り、僕は町山さんの「本人カムアウト」すら、僕には確実性は査定できない旨、そして、「まだどちらとも言えないセンシティヴな状態」が故に、討論を放念する(町山さんとの過去のコミュニュケーションに関して「リセット」し、熟考する。と言っているのです。


<私のかつて交際していた人はADHDの診断書を持っており、私の家族にもADHDの疑いがあり精神科で診断を待っている者がいます。私は彼女たちと話していて、「対話的なヒエラルヒーをつける能力に著しく欠ける」と感じたことはありません。コメント欄を読む限り、そういう方もいらっしゃるようですが、グラデーションなのではないでしょうか。まるでADHDを持つ方が全てそうであるというように私は読みました。>

 ↑ 家それは早計的な誤読です。ツイートにありますように、僕には、生徒にも知人にもADHDを持つ者がいます。友人としても、教師としても、彼らとのコミュニュケーションには特別なバイアスがかかりました。そういう意味で、むしろ僕はこちらの方が「間接的な当事者」ですので、「民族被差別者」であるよりも些か強度を持って発言しました。僕は育ての母親が統合失調症の罹患者で、大変な苦労をしましたが、精神病者と、神経症者と、それ以外のカテゴリーの方々が違う。という旨も、丁寧に前置きしています。

 また、ご指摘の通り、ADHDを持つ方が「対話的なヒエラルヒーを付ける能力に欠ける」かどうかは、グラデーションであり、個々人違うと思います。これもツイートを熟読いただければわかりますが、この点についても、まだ未開の領域である事、に加えて、町山さんのカムアウトの確実性が宙吊りであることも強調しています。

 また、あらゆる病者にグラデーションがあるのは指摘するまでもなく自明ではないでしょうか?コロナもガンも、風邪さえも、曖昧なカテゴライズがあるだけで、病床は個々人全部違うと思います。


<町山さんがADHDという属性を持つから、コミュニケーションを一旦は諦めることにしたというようにも。無論、町山さんははじめからコミュニケーションを放棄していますが。>

 ↑ そうは言っていません。前記の通り、「宙吊り(判断保留)」の状態になったので、一度放念せざるを得ない。と書いています。


<なぜ菊地さんは町山さんがADHDであると知り呆然とされたのでしょうか>

 ↑ それまで知らずにおり、そのままコミュニュケーションを行い、途中で突然知ったからです。ADHDという実態に呆然としたのではありません。そして、グラデーションである、という事は「コミュニュケーション能力に不全がある」可能性も同時に示しています。グラデーションを、軽度の方に引っ張るのもまた偏向だと思います。


<なぜわざわざ町山さんがADHDであるかもしれないことをツイートする必要があったのでしょうか>

 ↑ 前記の通り、「知らないままで話していたのに、知ったから」です。


<ADHDに対して何か強いこだわりのようなものを感じました。菊地さんがADHDを持つ方とこれまでどのような関わりがあったのか、どのようにしてADHDに関する理解を、知識を得てこられたのか、もし可能であればお聞きしたいです>

 ↑ ツイート内にも明言しましたが、前段の通りです。


<当事者でない者が、当事者とどう接すればいいのかは難しくまだ私にもわかりません。ただ、当事者と関わりがあるということは自分を正当化する理由にはならないはずです>

 ↑ そのご意見には、半分は首肯しますが、半分は僕も(あなたも)難しく、正解はわかりません。ただ「当事者じゃねえとわかんねえんだよ」という態度は強硬であり、合衆国における黒人差別などに強く働いているコミュニュケーション拒否のバイアスとして機能していることも事実だと思います。ですので、難しいわけです。

<ADHDに限らず、非当事者にできることは、長い時間をかけて真摯に向き合うことであり、おそらくそこには非言語的なコミュニケーションも必要であると、今のところ私はそう思っています>

 ↑ 仰る通りです。

<そしてそれはTwitterでは不可能でしょう>

 ↑ まさにその通りです。

<あえて菊地さんがTwitterで町山さんに話を、町山さんの話をしているのはなぜでしょうか>

 ↑ あまりにも前提的な話ですが、町山さんが僕以外の方々へ喧嘩を売ったり、襲撃的な批判を投げかける時、すべてTwitterを使用しているからです。ですので、僕もTwitterではなく、直接討論を個人メール宛で申し込みました(本当は電話差し上げるのが最善だと思いましたが、番号がわからなかったので)。そして、送信と同時にTwitterに上げました。これは、町山さんが、僕以外の(僕への最初の襲撃の際にも)方との論争時に、Twitter一本槍なので、Twitterというグラウンドに降りないと、相手をしてもらえない可能性を感じた事、そして電話やメールとTwitterがどのように、どのような「筋」で、統一され得るのか、あるいは住み分けて、全く別のコミュニュケーションツールとして各々完全に独立しているのかを試したかった事(僕はコミュニュケーションツールは、各特色はあれど、頑健な個別性は存在しないと信じています)、そして繰り返しますが、町山さんがTwitterというグラウンドから出ないので、こちらから赴くのが筋だと思ったからです。



<長文失礼いたしました。DC/PRGのライブ音源、そしてペペトルメントアスカラールのコンサートを楽しみにしております。>

 ↑ ありがとうございます。緊急事態宣言の延長を以ってして、コンサートの延期や中止の憂き目にあう可能性が高まっていますが、可能な限り行います。その際はぜひお越しください。紳士的な対応による真摯なご意見をありがとうございました。僕のツイートはもうありませんが、2月いっぱいは残しますので、よろしければ時を置いてからで良いので、再読して頂ければ幸いです。



No.48 45ヶ月前

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