「菊地成孔の一週間」第7回〜(笑)からwwwへの自己更新など、何で目指していたのだろうか?と自問しながら、とにかく咳喘息だけは勘弁してほしい11月下旬〜
11月21日(水曜)
「ビュロ菊だより」も2ヶ月目を終えようとしていて、この日記と動画コンテンツの「ポップアナリーゼ」が7回目となり、映画エッセイが3、グルメエッセイが4回を数える事になったが、内容はともかくとしても(とはいえ毎回「ああ面白い。こんなに面白い物が何で10万人に売れないのだろう。おっかしいな〜。うっはははははは〜」とか言って仰け反ったりしている。完全な馬鹿だと言えるだろう)、ポーションの問題が常につきまとう。「多いか、丁度良いか、少ないか、どれが好き?」と問われたとき、正しき人は何と回答し続けてきたのだろうか。グリム童話とか故事とかに答えがありそうだが、どっちも読んだ事が無い(特に故事。名前が名前だけに)。
単に顧客の方からの反応だけを参照するならば、「量が多過ぎて早くも投げ出してます。金を払ってノルマに苦しむのはイヤ」(実際にそれで退会した人がいた・笑)という声と「がっつり満腹で充実です!」という声がどちらも届くので(一番多いのは「内容はもう十分だから、とにかくしっかり休んで加療しろ」というもの・笑)、誰もが気持ちよく通読/再読できる、丁度いいポーションを模索中だ。ただ、料理屋の倅であり、料理屋の毎夜の客である身から言えば「万人にちょうど良いポーション」は存在しない(「もし客全員が早稲田大学の体育会の学生なら、定食屋は悩まないで済む」というビジネス新書があったら買う。理由=旨そうだから)。
どうやらなんだか(まだちゃんと把握していないのだが、決して把握を放棄した訳ではない事は強調したい)、200円ぐらいで各コンテンツを別々に買えるようなのだが、それこそ料理のように複数名でシェアできれば良いのに。と思う。
恋人と二人で買って、どちらかが全部支払い「アタシは日記3日分で良いや。あとあげる」「え?いいの?」「うん。アタシ動画で三輪さんだけ観れれば良いから。写真も要らない。三輪さんが写ってたらそれだけ頂戴」「あそう。じゃあこの映画評、オレ貰うね」「いいよ。岩井俊二のだけくれれば」「OK、じゃあすいませんこのグラスの赤、おかわりください」「アタシも」とかいっちゃって。
とか何とか、いきなり話は変わるが、現在(というか、結構前からずっと)考えているのは、インターネットに接続しないPCもしくは単体のワードプロセッサーを買う事だ。値段はいくらでも良いから、防水のがあったら最高。風呂で原稿を書くというのは人類史上の夢だろう。食事もセックスも、作曲やサックスの練習すら風呂で出来るが、原稿だけが書けない。「スマホで書いてるよ。とっくにあるよ防水」という友人がいっぱいいるのだが、ロクな物を書いていない。人の事は言えないが。
うわあもう既にその日の事を何も書いていないうちにこんなに書いてしまった。早めに引きあげないと。とか言いながら、今日は仕事がてんこもりで、まずは「イントキシケイト」で「峰不二子という女」の山本監督と対談、それが終わって新宿のシネアートに移動(といっても近所に散歩に出るのと同じだが)してホン・サンスの「次の朝は他人」の上映後トークショー、そして「粋な夜電波」の収録、と、5時から始まって、終わったのが3時だった。10時間労働など屁でもない人もいるだろうが、僕個人の平均では――演奏も練習もしないという前提では――多い方だ。
山本監督は才気あふれる女性で、背が高くスタイルが良く、とても奇麗なのだが顔出しNGなのだそうで(フォトレポート参照)、やはり頂点を突く業界というのはヤバいよなあ。と思うばかりである。今はどうか知らないが、菅野よう子さんと良く仕事をしていた頃、ファニーフェイスでかわいらしい彼女も顔出しNGだった。
こっちは本当の顔がどんなだか解らないほど出し放題である。こないだ酉の市に行って、花車を買っていたら、近くで「ねえねえあの人芸能人だよね、芸能人だよね」「名前なんだっけ?菊地」「そうそう菊地なんとかさん」という声が聞こえたかと思うや否や「すみません菊地さん握手してください〜」と言われ、にこやかに(演技ではない。僕は――偶然でありさえすれば。だが――街で声をかけられるのは、友人であれファンの方であれ、同様に好きだ)握手させて頂いたのだが、おそらく彼女達は、僕がテナーサックス奏者で、ブルーノート東京のステージで、67年のウエイン・ショーターのストックフレーズにリアルタイムディレイをかけているとかぜんぜん知らないと思う。勿論全く文句はないし、山本監督とてそうなったら同じだろう。ストリート接触の危険度がアニメとジャズでは全然違うというだけだろう(アニメファンが危険な人物だと言っているのではない。1万円と1000万円では1000万円のが危険だ)。
ホン・サンスについては、トークの中で「毎回必ず同じショットが繰り返されるが、観客は気がつかない(「欲望の曖昧な対象」と同じで、観客が恋愛という狂気と全く同じ状態に陥っているので、短気記憶を失うが故)。もし<途中から気になってしょうがなかった>という人はメールを下さい」といった話をしたら、一通だけ頂戴した。どんな色男にも、落ちない女性はいる。あまりに痛快だったので、若干の短縮と修正を加えた上でご紹介させて頂きたい。
菊地成孔様
こんにちは。
昨夜のトークショーで、菊地さんの『次の朝は他人』の解説、
拝聴いたしました。
残念ながら『麻雀放浪記』はまだ観たことがなかったのですが、
ルイス・ブニュエルの2作品は観たことがあったので、
「ああなるほどね。」とふむふむうなずきながら楽しくお話を伺っていました。
そしてトークショーもそろそろ終わりにさしかかっていた頃に、
ズームアップ→パンのショットの話をして下さって、
もしかしてアレに触れないままトークショー終わっちゃうのかしら、、
と危惧していた私はほっとしました。
しかし、ほっとしたのも束の間、
菊地さんは、アレが映画が進むうちにまったく気にならなくなってくると!
映画を観た人の大半はそう思うのではないかとも!!
わたしはアレが映画中、気になって気になってしょうがありませんでした。
そして今、映画からだけではなく、菊地さんのコメントも加わって、
ダブルで悶々状態に陥ってしまっています。
「このショットうっざ~い!と思っていた方は、
メールして下さい」、と菊地さんも仰ってくださったので、
早速お言葉に甘えてさせて頂きました。笑
できれば、その辺の話も含めて、
菊地さんが直接、ホン・サンス監督とお話されるトークショーがあればいいのに。ないのがとても残念です。
『ユングのサウンドトラック』に解説されている
『アバンチュールはパリで』もこの機会にぜひ観ようと思っています。
最近は急に冷え込んできましたので、
お体にはくれぐれもお気をつけて。
どこかで、またお話を聞けるのを楽しみにしております。
この方には感謝と同時に(1)「麻雀放浪記」を是非見て頂きたい(2)ホン・サンスはゴダールどころではない気難しい嫌な奴でインタビュアがみんな恐れているので、対談なんかとんでもない。でも僕の批評は韓国語に訳して送ってみようと思っている。という2点を添えさせて頂きたいと思う。
あまりに当たり前すぎる事だが「恋愛映画」は恋愛を映画で描いているだけで、観客に実際に恋愛させている訳ではない。所謂「疑似恋愛」は、鰻の匂いを嗅いでいるのとほぼ同じだ(だから「デートで恋愛映画を見る」という事は、鰻を食いながら鰻の香りを嗅がされているのと同じで、食っている鰻の味も、食欲も助長しない上に、必ずおかしな事が起こる)。
要するに、映画で描く事が出来る恋愛の範囲には限界があり、「次の朝は他人」が最大の成果を上げたとき、それは超えられてしまうのだが、それが新しい技法(記述法だが)と、新しいアティテュード(同一性を揺らがせる。ということ)によって構造的になされているのが素晴らしいし、恐ろしいと思う。
帰宅したら3時半だったので、コンビニでカロリーメイトと「一発元気」みたいな名前のゼリー食を買って、部屋に戻るまでに食べてしまう。もし許されるのなら、星付きのメインディッシュも歩きながら喰ってみたい方だ。
11月22日(木)
ペン大理論科中等。「テンション」の授業。基本的なコード進行にテンションノートを付与し、調性を拡張する。と、文字や楽譜で書くとチンプンカンプンだが、音を出せば「ああ、あれの事ね」と解る。
ここが大衆音楽教育の特徴である。聴いた事もない、もの凄いことを教えるのではないのだ。言語と似ているようで、微妙に似ていない。
以下「何か前回の日記にも、同じような事が書いてあったぞ」と思われる事必至。なのだが(何せ、同じ事を書くので)、僕の主催するパーテイーのひとつである「モダンジャズ・ディスコティーク」の初回にライブを行ってくれた、ジャズ発の大変に優れたバンド「けもの」のヴォーカルである青羊(あめ)さんと、ベースの織原くんと、エアプレーン・レーベルのベーアと、事務所で打ち合わせをする。
と、ここから先は(なんと)前回の「ものんくる」の記述と一字一句違わないので、お手数だが前回の11月15日分(つまり、きっちり一週間前)をコピペして頂きたい。要するに、来年僕は、「ものんくる」と「けもの」のアルバムを連続でプロデュース/リリースするので、一週間おきで打ち合わせを連続したのである。とにかく繰り返し言うが、誰もが驚く筈だ。ジャズミュージックの可能性に。
終わって歌舞伎町のど真ん中にある「魚心」(寿司屋)でハイボールと寿司をたらふく。ベーアはまたしてもほとんど喰わず、不機嫌そうにハイボールを飲んで煙草をふかしていた(これまた一週間前と全く同じ)。
「魚心」は、むかしラジオで話した「姫セット」のある(今はもう無い)、顧客の99%がホスト/キャバ嬢/準任侠道、もしくは亜種任侠道(いわゆる「半グレ」)/任侠道の人々が占める、紛うかたなき「歌舞伎町の寿司屋」である。ここに青羊さんをお連れする等、花を手折るに等しい悪行なのだが、青羊さんは臨室(個室に通された)のエグイ騒ぎ(一文字も書けない)を、個室と個室をパーテするブラインドシートをめくって、幼稚園児が隣の教室を見つめるようにじっと覗いていた。
ビュロ菊だより 第七号「菊地成孔の一週間」
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