菊地成孔(著者) のコメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>9

 僕はホセ・バスコンセロス(メキシコで最初の公共教育大臣になった狂人。ディエゴリベラ等への壁画運動の推進と、混血こそが次の地球を救済するとした「ラサ・コスミケ」というアジテーション文の書き手)に、計り知れない大きな影響を受けているので、メキシコに演奏にゆかなければいけないし、ブエノスアイレスには大恩や友情が残っており、必ず戻って演奏しないといけませんし、ブラジルにも、プエルトリコにも、ペルーにも、文学でも音楽でも、牛肉でもダンスでも、大きな借りがあるので、一生かけて仮を返しにゆかなくてはいけない。「血が混じる」ということを、生物学的には血がさほど混じっていないオルケスタが、どういう風に混血という文化を継承しているかを、人々に聴かせたいです。セネガルにもタンザニアにも、マリやコンゴ、ナイジェリアにさえ仮と大恩はありますが、彼らは無邪気過ぎ、そして破傷風菌とか内戦とか、オルケスタが遠征するには難かしかったり、虚しかったりする所もありますので、僕の凱旋用方位磁石はラテンアメリカンとも、スパニッシュアメリカンともイベロアメリカンとも呼ばれる彼の大陸を常に指しています。

 日本は、「世界一、人々がカジュアルに踊らない国」というとてつもない(本当に、とてつもない)記録を持っているすごい国で(逆に「一番踊る」のはほぼいつでもキューバ)、やはりどうしても、ハイになったらフェスで踊り狂うだけ、というのは、エヴァンゲリヲンが、いじめられっ子がキレて相手を殺してしまうようにしか相手を殺せないのと同じようにしか見えません。僕はアリのように、タイソンのように勝ってほしいし、踊ってほしいですね。

 今になって突然ウエブで読めるようになったので、皆さんに是非読んでいただきたいのが、ウエブ版の「ラティーナ」にある、アントニオ・ロウレイロ、ディエゴ・スキッシ、アクセル・トスカと僕との対談です。彼らは、僕の音楽を全て熱心に楽しく聴き込み、胡散臭いとか、エロいとか、プロデュースが凄いとか、腰の抜けたことは一切言いません。記事には収録されていませんが、アクセルとアントニオは「お前の音楽は、斬新なのに1曲残らず全部踊れる。日本人はどうしてるんだ?」と聞きました。ご期待に添えるように、長い歴史の中に踏み込もうと思います。

 

No.11 50ヶ月前

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