菊地成孔(著者) のコメント

菊地成孔 菊地成孔
(著者)

>>16

 対位法の話に絞ると、ブルース概念は対位法に入っていないので、ブルースやロックンロールのラインは対位法取得者には逆に難しい、、、、というか、対位法取得者にはブルース感覚がないことが多く、これを完全に、文句なしに、感覚的にも分析的にも半々に融合して実践できたのはポールマッカートニー以前にも以後にもいません。

 ザ・ビートルズの音楽的ミクスチュアの起爆点は、マッカートニーが、ブラックミュージックとロマン派前までのクラシック音楽を無学のままミクスチュアしたことです。マッカートニーが全ての基準になるとも言えますね。ビートルマニアは「クラシックの素養はジョージマーチンのもの」としたがるのは、オーケストラ楽器を彼がアレンジメントできたから、それだけの上っ面のことで、マッカートニーは、もうラバーソウルの段階で完全に実践していました。

 日本人の芸大作曲科卒業者の大衆音楽(そこにはロックもブラックミュージックも含まれます)との融合に於いては、坂本龍一が全ての基準になります。坂本龍一が、案外ロックロックしたものに弱く、ブラックミュージック、特にR&Bに「奇妙な強さ(テクノドンとか)」を見せるのは、現代R&Bがクラシカルになっている、つまり擦り寄っている事の証左で、例えばODは、ある意味ベーシストよりも綺麗にベースラインを書きますが、それは、自分が書いた綺麗なコード進行の上でのことで、3コード的なロックンロールや、その極限値であるジョン・レノンの「アイアムザウォルラス」のような曲、あとモードジャズ、モードR&B(最近だとロブミルトンとか、アフロフューチャリックのジーさディスファクションとか)の手法が出来ず、これはサウスロンドンやイズラエルのクラブジャズの状況と全く違う「坂本ボーダー」みたいなものがありますね。「坂本ボーダー」は、和声をブロッキングコードで捉えられずに、必ず横の流れを綺麗に整えるという、鬼テクでありながら限界であることから抜け出られません。これは渋谷慶一郎氏も小田朋美氏も同じで、YMOに細野さんがいたことが、リアルタイムでどれだけの万能感になっていたか、想像するに興奮しますね。「ソリッドステートサヴァイヴァー」までは、龍一さんの和声進行に細野さんがベースラインを引く。ということが普通に行われていたと思います。


 

No.18 55ヶ月前

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