第四回『ボクタク』開沼博著『被災地・福島をめぐってすれ違う課題』をめぐる対談
INDEX
■イントロダクション■「すれ違い」の現状
■知の権力構造と無意識のポジショントーク
■震災が滅ぼした「既になかったもの」
■複雑なものを複雑なままに
■観察を超え、参与を恐れず
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■イントロダクション
開沼博著『被災地・福島をめぐってすれ違う課題』をめぐる対談
マスコミや学会など「知の権力構造」の上位に立つ者たちの振る舞いが、被災地の真実を覆い隠し、その解決を遠ざけている。そこで起きていることのリアリティと向き合うことからしか、未来への展望は開けないと語る開沼博に、自らも被災地を巡った烏賀陽弘道の舌鋒が迫る。
◎この対談について
・この対談は、2013年4月4日にニコニコチャンネルの生放送で配信された対談です。当日の内容は、Youtubeにもアップされています。
こちら(http://youtu.be/xO1C2ERRdTw)からご視聴いただけますので是非ご覧下さい。
・対談のベースになっている記事は、下記のwebサイトよりお読みいただけます。
ダイヤモンドオンライン 連載「大震災2年目の「今」を見つめて」より
第二回『被災地・福島をめぐってすれ違う課題【前提編】』
http://diamond.jp/articles/-/32891
第二回『被災地・福島をめぐってすれ違う課題【前進編】』
http://diamond.jp/articles/-/33001
◎対談テキストについて
・対談内の人物表記は、(U)烏賀陽氏、(K)開沼氏 と表記しています。
・対談内容のテキスト化において、口語部分等内容の一部修正をしています。
◎対談音声の聞き方について
・『ボクタク』チャンネル購読後に配信されるメールの、「電子書籍で読む(本記事のみ)」のURLをクリックしてEPUBファイルをダウンロードし、EPUBリーダーにてご視聴ください。
・また、ニコニコチャンネルの『ボクタク』ブロマガ記事(この記事)からダウンロードする場合、本ページ右側上にある「電子書籍」タブをクリックすることでダウンロードできます。
・各章の最初に音声を聞くためのリンクが設置してあります。
・ご視聴いただく周りの環境にご配慮の上、お楽しみください。ご覧いただくリーダーによっては、音声の再生が行えない場合があります。
◎推奨環境について
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◎bokutaku.comについて
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・ボクタク公式サイト
http://bokutaku.com
・ボクタク交流用掲示板
http://bokutaku.com/bbs/
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開沼博著『被災地・福島をめぐってすれ違う課題』をめぐる対談
烏賀陽(U)
開沼(K)
■「すれ違い」の現状
U「どうも開沼さん、こんばんは」
K「こんばんは。1ヶ月ぶりぐらいで」
U「ご無沙汰…でもないか(笑)」
K「(笑)よろしくお願いします」
U「ええと、ボクタクも4回目になりました。着実な進歩を遂げておるんですが、今回はですね、開沼さんがダイヤモンド・オンラインに連載されている文章を取り上げます。そのテーマは『被災地・福島をめぐってすれ違う課題』です。これ前編後編、前提編と前進編って、2回に分かれてるんですね」
K「そうですね」
U「というこのダイヤモンド・オンラインでの論考について今日、前半お話を伺おうと。で、私が後半お話をするような感じで進めたいと思うんですが、最初の質問ですけど、『被災地・福島をめぐってすれ違う課題』ってのは、震災2周年を契機に書かれたんですね」
K「ですね」
U「ここには色々なことが書いてあるんですけれども…色々こう批判がなされていてですね、僕も読んでなるほどな、と思ったのは、こういうことが今、巷では言われているのか、という部分ですね。例えば福島に対する見方で、必ずしも(震災後に)福島から人が逃げ出していて、人口流出が起きているとか、あるいは雇用が減ってる(という言われ方)。実際にはそんなことはないという話なんですね」
K「はい」
U「後はその、震災以降の問題ばかりとは限らないと、それ以前からある問題も当然そこに現れているな、と(いうことです)。もうひとつは、福島にいる人にとって、震災で被災したという当事者意識があるとは限らないという、これですね。僕は開沼さんが、こう書いておられるのを見て、僕も福島に何度も足を運んで、その現場を知ってるので、この通りだと思ったんですよ。と同時に、では開沼さんは今どうしてこれをあえて問題提起して、何を批判するのだろう、と思ったんですね。(これを読んで)なるほどこんな風に思い込んでいる人がいるんだ、と。逆に気が付いたようなところがあって…例えば福島のマスメディアがそういう風に持って行きたがってるのか、とか、もう復興は進んでいて、人口流出も止まったんだ、という風に、例えばその、地元メディアが言いたがっているのか、とか(考えさせられました)。(開沼さんは)どういうことを指して、この文章を書かれたんでしょう?」
K「そうですね。いやもう、それはその通りだって言う人はいるだろうし、それは恐らく現場を見ている人…烏賀陽さんもそうですね…の言い方だと思うんですけども、まあでもそうじゃない人が多いだろう、というのはやっぱりありましたね。で、そこに引用したのはある全国紙の社説ですよね」
U「おお、毎日新聞ですね、はい(笑)」
K「そうですね、はい。で、毎日新聞の1月の社説で、まあ、人口流出が続き、雇用も流出しているという話になってるんですけども」
U「ああ、そんな話にしちゃってるんだ」
K「それが、本当にそうなのか、っていうところで(書いたんです)。311前後の報道も色々、まあ論評しなくちゃいけない仕事があってですね、見たんですけれども、基本的にはそういう枠組みで語っちゃうパターンが多かったんですね」
U「ほう」
K「で、その問題点ってのは、原稿にも書いているんですけれども、現地の問題って(もう)そこじゃなくなってきている部分も相当あるよ、って言わないとダメだなと。例えば雇用の問題とかも、福島の人は雇用がなくて苦しんでいる、みたいな漠然としたイメージあるいはそれに基づく善意で報じてしまう。あるいは支援をしてしまうんだけれども、(実際現地に)行ってみると、あれ、全国でこれだけ求人ある所ないじゃないかと」
U「そうなんですね」
K「まったく逆の認識になっちゃうわけですね」
U「ほう」
K「ってなると、ここでまた単純な方向から単純な方向に振れる人ってのは、いや福島すげえ雇用あるじゃん、っていう話だと思い、じゃあ放っとけばいいのか(、と思ってしまう)。これも違うんですよね。問題は雇用は滅茶苦茶あるらしいが、ミスマッチが起こってもいるらしい、ってところなんですよね。いわゆる土木建設業系の雇用(に偏っている)とか、女性の雇用がない問題とか、っていう状況になってきている」
U「女性の雇用ね」
K「そうなんですね。パートの仕事を元々やっていた方が、避難先でもパートをやらないと家計が維持できないという場合、そこでパートを始めようとしたら、地元のパートタイマーって、地域の経済規模、市場規模の中で、ここだったら何千人ぐらいのパートが必要で、そのためには時給これぐらい設定して、ってなっていた元々の均衡状態が崩れるわけですよね。で、避難者の人が来たお陰でパートの仕事がなくなったとか(いうことが起きる)」
U「その避難先っていうのは、福島県内ってこと?」
K「県内もそうだし、福島から米沢…山形に逃げている方だとか、まあ新潟などでも起こってしまっている問題なんですよね」
U「ほうほう。今の話を聞いて思い出したのは、私も南相馬とか、飯舘とかに取材に行く時には、南相馬に泊まろうとして、いつも宿を探すんですけど、全部埋まってるんです」
K「そうなんですよね」
U「でね、半年先まで埋まってるって言われて、何でそんなに宿が埋まってるんですか、って聞いたら、除洗と復興作業で大量に人が来ていて、今とても宿が足りないんだと言われたんです。それで不思議に思ってですね、ある日新聞を開いてみると、新聞に福島の経済成長率がすごい、って話が出ていてですね、あの、何だっけな、震災直前と比べると全国で一番経済成長率があるとか何とかって話を、帝国データバンクだかどこかが出していて、なんじゃこれはと。まさに、開沼さんの問題提起通り、雇用が増えているんじゃないか、とか、景気がむしろいいんじゃないかとかっていう(印象を受けたんです)。しかしそれは土建業とか除染…まあ除染も土建業の一つですけども、いわゆる男性向けのね、肉体労働が主なような気もするしと」
K「そうですね」
U「そういう風なお話ですよね」
K「そうですね。でも、かつてあったそういう成長モデルの時に、土建業を中心に持続的な成長をやって来られた時代も(日本ではもう)終わっていて、今、そうじゃないものが必要だってところに、たまたま偶然的なバブルが来てしまっているという問題ですよね」
U「なるほど」
K「だから、じゃあそれ(土木建設中心型の経済)が持続的に成長できるんですか、っていう問いを、または成長というか、持続的に地域を活性化する枠組みになるんですか、ってことを多分問うべきなんです。ところが、雇用がいつまでも流出している、みたいな話を…これは別に社説が悪いわけじゃなくて、真っ当なことを、善意を持って言ってるので、あまり僕も正面から批判、否定するつもりはないんだけれども、やっぱり善意を持ってくれている人だからこそ、こちらから何か強く言えないみたいなメカニズムもあると思うんですよね。で、その中で本来見るべき問題が放置されてしまう。多分この問題設定ってのは、2011年4月5月ぐらいの、人がどんどん出て行ってるとか、工場が閉鎖になって…みたいなエピソードに基づいて作られた先入観…震災後のファーストインプレッションが今まで維持されちゃってるのかな、っていうところなんですよね」
U「うーん。実際、最初の避難段階ではね、例えば企業がやむなく休業に追い込まれていたとかあったけれども、今は段階的に、30キロ圏の避難準備が解除されたりして、人が戻ってきたら、雇用というか、その会社はもうオープンしているわけだよね。だけれども、まだこんなことを言い続けている人はいるんだね。そうか、主にこれ東京発信の話か」
K「そうですね。それから、やっぱり僕の震災後の意識ってのは、あの、前回も言ったかもしれないですけど、知の権力構造自体を崩していくってことなんですね」
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■知の権力構造と無意識のポジショントーク
U「知?」
K「はい」
U「ああ。知識の知?」
K「そうですね。要は、何か問題を捉える時にも、一見客観的で普遍的に見える現象として観察されてます、って(謳われてる)ことが、実は誰か特定のポジションから発せられていないか、と」
U「なるほどなるほど」
K「で、その特定のポジションっていうのは、頭数が大きいとか、儲かってるとか、伝統的な組織である、というポジションから発せられてるんじゃないか、っていうことなんですよね」
U「なるほどね」
K「で、東京の人にとっては、この問題って、人口が減ってるとか、あの、雇用が大変だ、っていう…大変だ、憂う、悲嘆する、っていうところでやってる方が楽なのかもしれないと。3.11前後(震災後にやってくるその日)の報道の切り口ってのも、例えば復興が遅れているけどどうしましょう、っていう切り口で、ある面ではすごく反省しているようなんだけれども、実は一億総懺悔と同じで…。実際の問題って多分、復興が遅れている部分と進んでいる部分と両方あって、そこを細分化した上で、遅れている部分をしっかりやっていきましょう、っていう話なんだけれども、ぶっちゃけそんなことに、知の強者の側にいる人って興味ないのかもしれない(と感じるんです)。であれば、そこをどうやって、もう1回掘り返していくのか、っていうことなのかなと思ってます」
U「知の強者ね、知にも強者弱者があるっていうのね。それは面白いね。自分もその、朝日新聞社っていう、まさに知の権力構造の上部にある組織にいた人間として証言すると、さも(強者という振る舞いが)、どうしようもなくあるんだよね。で、困るのはそこから発信する人たちは、自分たちがその知的権力構造の勝者、上部にいるってことを自覚しないで言うってこと。彼らは非常にいいことをしているつもりなんだよね。だって、俺は権力者だ、っていう認識があればまだしも、チェックアンドバランスを利かせられるんだけれども、彼らにチェックアンドバランスを入れようとすると、何で俺たちがそんな非難されなくちゃいけないんだ、って弱者の振りをし始めるんだよね。だからそれ(開沼さんの強者弱者の捉え方)は、すごく当たってるよね。そういう権力構造の上部から発せられる情報ってのがね、福島の人にとって、あるいは3.11の被災地の人たちにとってはどんな害があるんだろう」
K「まあ色んな側面で…まあ単純に復興が遅れているという話とはまた別に、風化が進んでるって話も、農家の人には、ぶっちゃけ風化が進んでくれた方が、風評被害もなくなっていいんです、って言う人もいるということですね。で、あの爆発したやつ(原子炉)4つに全部カバーかけてくれて、で、まあ、見た目キレイにしてもらって、まあもちろん収束宣言、ちゃんとした形の収束をしてもらって、ちゃんとしかるべき放射線対策を農業でやって、線量も出ない、ってのが一番いいシナリオだ、っていうリアリズムはあるわけです。でもこんなことを言い出すと、多分東京の人は混乱するのかもしれないと」
U「ああ、それは常にあれだよね。本音と建前が分裂していくよね」
K「そうですね」
U「復興が遅れていると言われて、予算がどーんと増えて回ってくれるといいんだけれども、逆に風化してくれて、福島のキャベツ食べちゃった、って方が農家の人にとってはいいんだと。まさに忘れられて、風評が風化するってね(笑)」
K「研究者の人にはもう、風化させるしかない、っていう風に言ってる方もいます」
U「あ、風評研究家っていう」
K「そうですね。宮崎の話とか鳥インフルとか、色々事例も見ていったけれども…」
U「宮崎は狂牛病の話ね、つまりBSEか」
K「そうですね」
U「つまり忘れさせる方がいいってことか」
K「そうですね。ですがまあ、それは言ったら極端な話ですから、忘れないで欲しいと言ってるのは事実です。だけれども、一口には言えないさまざまな状況だとか、それぞれの立場からの発言をすくい上げていく作業ってすごく面倒くさいんですよね。(やりようによっては)誤解を招きかねないし」
U「そうですね。
K「でも、多分情報を出す側でそれをやっていかなければ、見せていかなければならないんです。(そこを省いて)風化が進んでます、って話をしても、いやそれは当然じゃん、って僕は突っ込んじゃうし、地元の人で突っ込む人も多いと思うんですね」
U「忘れるってのは人間の、心理の安全弁みたいなところがあって、そうしないと多分人間は精神的に破綻してしまう気がするんですよ。いつまでも、あんな巨大な災害の記憶を、2011年3月11日のまま引きずっていたとしたら、多分みんな倒れちゃうと思うんだよね。ある程度忘れるってのは、精神が健康な証拠だと思うんですよ、ただ多分、開沼さんが言おうとしているのは、それこそ知の権力構造の強者弱者だとか、川上川下の中で、その風化ってのが同時に進んだ場合、そこには何かの格差が生まれて、それが害になるってことなのかなって想像しているんですが、どうなんだろうか」
K「まあ、そうですね。烏賀陽さんもやってらっしゃる、避難している方たちのこととかどうするのか、っていう問題で言えば、これも、同じ毎日新聞で、あの、良い悪いって話じゃないんですけれども、毎日新聞の記者さんが、避難所…避難所はもうないですね。仮設住宅と借り上げ住宅にいる親子で、子供の学力が震災後どうなったか、っていうのを調べています。これ、あまり大量のデータは取れない調査なんだけれども、やっぱり下がっていると言うんですね。他にも色んなことが起こってるんですけれども、戻る戻らない問題っていうのもあって、(元の住まいに)戻らないで根付く子、例えば南相馬から福島市に行って、そこで(保護者が)新しい仕事を見つけて生活していくっていう家の子供と、やっぱり子供のことを考えて(地元に戻る)っていう子で、一体何が違うかっていうと、例えば小学校1年生から4年生までずっと同じ先生たちの中で育った、育てられてきたっていう地域の子供でも、環境適応力のある、まあ強者がわの強い子供は福島市に行っても元気にやるけれども、そうじゃない子ってのが(新しい環境の中)イジメられてしまうとか、発達障害的な問題を持っている子とかが戻ってきてしまうような側面もある。そういう環境の中だと、元から勉強が苦手な子とかが、尚更苦手になっていってしまう、っていう状況も起こってしまう、と」
U「山形に避難している、福島の浜通りの人たちに話を聞くと、大人でさえ辛いっていうもんね。そもそも浜通りはほとんど雪が積もらないのに、山形は雪が積もって、道路がカチンカチンに凍って、除雪っていうか、雪かきが大変なんだと。こんなことしたことがないというわけです。それから、料理の味付けが全然違って、塩辛くて、それだけでも何かこう胃がおかしくなってくるって言うんだよね。それって、些細なことのように思えるんだけれども、そういう生活が何日も何年も続くって中ではものすごく大きな集積になっていくというか、塵も積もれば山となるって話で、段々それが、大きなストレスになっていくらしいんですよ。(それを聞いて)なるほどなぁ、当たり前だよなと(思いました)。今まで、生まれた故郷でずっと育ってきた人たちが、生まれて初めて引っ越しをして、しかも自分で選んだ場所じゃない所に、ある日突然強制的に行かされるというのはすごいことだよなと思うんですよね」
K「はい」
U「で、ダイヤモンド・オンラインの話に戻すんですけども、2つ目の論点として、何もかもが震災由来、いわゆるその原発事故由来の問題なんじゃないんだ、ということを仰っていますね。そうだろうな、と思うんですけども、これはつまりその震災前からあった問題がそのまま続いているのを、誰かが震災、あるいは原発事故のせいだ、という風に誤解しているんだ、っていうそういう話なんですか」
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