na85 のコメント

>>59:こいらさん
>宮崎駿の中に「大東亜戦争=近代、平和主義=自然・土着」みたいな「間違った」対立構造を生んでる図式があるのではないのでしょうか。
>この国で近代を批評しそれを乗り越えるためには、たとえ土着や自然に回帰するにせよ、それが創作の世界にせよ「天皇陛下を中心にした日本という共同体」を意識しなければならないのですが、どうも宮崎駿は「何か空とか自然とか土着みたいなものに『逃避』すれば『日本みたいなうざったい共同体国家』から逃れられる」みたいな「倒錯した日本の近代批判」みたいなものにしかなってない

 深くて面白い考察をありがとうございます。西欧近代主義の一つの極点を極めた米英を相手に、米英を超えるべく近代化して戦った日本という図式が大東亜戦争にはありました。それが空母と艦載機による真珠湾攻撃~ミッドウェー寸前までの初戦の勝利につながったと思います。しかし徐々に近代主義の年季と物量の差に押され始め、戦争末期には日本の前近代の共同体主義が圧倒的な物量の差の存在下で戦い抜く力になっていったわけです。つまり郷土を守るという意識を共有した兵士であるとともに、最後には顔の見える程度の共同体としての小隊・中隊で「この上官のためなら死ねる」という感情を共有した兵士たちが、陸海での特攻を成り立たせたかもしれないのです。土着・自然・村落共同体を含めた郷土を守るために、そして様々な共同体の最上位・国家共同体の至上の存在である天皇陛下のために、最後には兵士たちの土着的な共同体主義が戦う最後の力になっていったと思われます。その意味では土着・自然=平和とするサヨクにありがちな考え方は間違っていると言えます。
 自然・空・海・土着…に逃避すれば日本といううざったい共同体国家から逃れられる、という批評もなるほどと思いました。ただ宮崎駿氏にはこの世代に共通する同情すべき点がありますよね。敗戦とその後の7年間の占領期に世の中の価値が徐々に180度転倒していくのを目の当たりにした世代的な影響です。感受性の強い人であれば死ぬまで逃避し続けたいモノかもしれません。宮崎氏は少年時代には軍事的なことにも非常に興味を持っていたそうですが、徐々に左翼的な価値観を持つまでに遷移していくという個人の内での価値転倒を経験しているはずです。「天皇陛下を中心にした日本という共同体」など意識できないほどに混乱していると思われます。
 しかし「子供向きアニメばかり描いていられなくなった」と宮崎氏本人が述懐するリーマンショック後の現状と、世界的ヒットを連発するほどに持ち合わせた氏の作家の業の発動とにより、大人向けアニメを描いてしまったため、ついに矛盾が極点に達したように思います。ファンタジーではない大人向けアニメでは、自然や土着のみに目を向けさせて最後には大団円もしくは何がしかの希望を見せて終わるような描き方ができなくなったのですから当然です。
 零戦に至るまでの試作機製作では企業内のチームが共同体的パワーを発揮している場面も描かれますが、国家の意思は極力登場させず反映もさせず、登場人物たちに厭戦的な言葉を吐かせながら、それでも自分たちは良いものを創るだけだと言わせています。近代に近代で対抗する論者の代表に本城というキャラをすえましたが、それに対して堀越二郎を土着的な行き方で対抗すべしと言うようなキャラにはせず、堀辰夫の要素を混ぜて日本的な心情を満載したような恋愛を通じてかろうじて土着を感じさせるという見せ方にしたのだと思います。しかし宮崎氏にはここまでが限界で、これ以上を彼に求めるのは酷であるようにも思います。
 『風立ちぬ』は政治的な部分を全く見なず、一つの恋愛作品として見ても非常に面白いと思いますので、一度ご覧になることをお勧めしますよ。

 こいらさん、良い刺激をありがとうございます na85

No.71 128ヶ月前

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