アニメ評論家・藤津亮太のアニメの門メールマガジン

アニメレビュー勉強会原稿/第2位・第3位

2012/08/21 16:06 投稿

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 第一回アニメレビュー勉強会で高得点を集めた原稿を紹介します。当初は某サイトに掲載をお願いしていたのですが、継続的な掲載は難しいかも……というムードになってきたので、僕のブログに掲載させていただくことにしました。
 まずは3位と2位の原稿を。
 採点は、投稿のあった28本の原稿に対して、参加者26人が持ち点50点で自由に点を割り振る、という方法で行われました。
 もちろん点が高いからといって絶賛されたわけではなく、点が低いからといって酷評ばかりではないのが、この勉強会ですが、それでもやはり、点が集まったレビューには全体の中でも目立った特徴・魅力があると思います。
 なお想定媒体は、あくまで読者層の想定をするための仕掛けでして、「文字数」「用字用語」「企画の方向性」などにまで準じたものではありませんのでご容赦を。
 ちなみにこの原稿【4】、原稿【3】はどちらも着眼点と展開がかなりユニークで、話題を集めた原稿でした。
 

第3位
原稿【4】/安次富陽子/想定媒体:L25

 ルパン三世シリーズに登場する魅惑のダイナマイトバディ女スパイ峰不二子。
 アラサー女子が小中学生だった頃、あのスタイルに憧れて、「大人になったら不二子ちゃんになりたい」と思った女子は多いはず。
それから●十年。想像とは違うところのお肉が出てきたり、膨らむはずのところが膨らまなかったり。
 厳しい現実を過ごす日々。ならばせめて!不二子ちゃんからモテ女の技を盗んでやろうじゃありませんか。
 『カリオストロの城』に登場する不二子ちゃんの3つの行動から学んで、ルパンのような肉食男子から、銭形のとっつあんのような年上の男性、石川五ェ門のような草食男子まで、あらゆるタイプの男性のハートをがっちりつかんじゃいましょう。

(1)ここぞ!という時に登場する
「不二子の単車だ……」ルパンの相棒次元はバイクの音で不二子ちゃんだとわかった。なぜか。
 それは、いざという時に彼女が登場するということを知っているのだ。
 いい女は自分の出る場面をよく理解している。だけでなく、その登場で男をやる気にさせてしまう。
 撤退命令をくらった銭形に「ルパンを捕まえるためなら天下御免で出動できるんでしょう?」と電話をして、やきもきしていたとっつぁんのやる気に一気に火をつけたのである。
 そして、「おじさま私も一緒に連れて行って!」と抱きついてキスをせがむクラリスに太陽の下で暮らしてほしいと願ったルパンはその申し出を断腸の思いで振り切る。クラリスへの未練でボーっと車から窓の外を眺めるルパンの前に不二子ちゃんは颯爽と現れて優しく微笑みちらりとお宝を披露。このテクニック! 大事ですよ。もうルパンはクラリスのことも忘れて頭の中は不二子ちゃん一色。

(2)若いライバルには笑顔で対応
 不二子ちゃんがルパンと過去に付き合い別れたのだと言うと、即座に「捨てられたの?」なんてかわいい顔して鋭いジャブを繰り出すクラリス。
 おじさまー。おじさまー。とルパンにまとわりつくクラリスに内心気が気でないだろう不二子ちゃん(注:妄想)はそこをさらりと笑顔で交わすと「いいえ。捨てたの。」と一言。これぞまさにストレートパンチ。クラリスもそれ以上は詮索せず。
 若いライバルのジャブにムキにならない。これぞまさにできる女の余裕である。

(3)彼しか知らない秘密を知っている
 ルパンが脱出中屋根の上で狙撃されてしまい、クラリスは指輪を渡すので助けてほしいと悪の親玉ラサール・ド・カリオストロに懇願する。
 指輪を渡すことを拒否するルパン。不二子ちゃんはその様子を見て「襟の裏よ。彼はいつも大切なものをそこに隠すの。」とクラリスに告げる。
 恋にのめり込むだけじゃなく、彼のことをよく観察してここぞという時に他の人は知らないポイントをついてみよう。
「自分のことをこんなに知っていてくれたのか!」と感激されること間違いないだろう。ただし、熱中し過ぎてあら捜しにならないこと。

 番外編:クラリスから学ぶモテ術 草食系男子には清純さをアピール
 実はクラリスもおじさまーと甘えるだけでなく、しっかりモテ技術を使っている。
 結婚式から脱走する場面で、さあ逃げようという時、後方を守る次元と五ェ門に、「どうぞご無事で。」としっかり挨拶するのだ。
 一度行こうとして、戻るところがポイントだ。女には興味がないと言っていた五ェ門が「可憐だ……」と頬をそめ、「今宵の斬鉄剣は一味違うぞ。」と一層の活躍をみせたのである。

 実はこの作品、監督は宮崎駿。「実はジブリのクラシックなの☆」とジブリ好き女子アピールも出来ちゃいます。
 まだ『カリオストロの城』を観たことのないあなたも、すでに観たあなたにも。女子必見の作品です。

※一言補足
この『カリ城』なのに、わざとジブリに言及する締めくくりは「アニメ好き男子が思わず反論したくなる釣り」の実践を促すために意図的に書かれているそうです(笑)。


第2位
原稿【3】/三浦大輔/想定掲載媒体:オトナファミ

 1976年、「カップうどん」が歴史的進化を遂げた。カップラーメンから派生して「カップ型容器」を継承したラインナップに、現在見られる「どんぶり型容器」が加わったのだ。大発見である。「うどん=どんぶり」、人類はその真理に、やっと手が届いた。そして空前の「カップうどんブーム」到来。武田鉄矢主演のCM「戦車が怖くて『赤いきつね』が食えるか!」は1978年の流行語ともなった。
 それはさておき、翌1979年に公開されたのが『ルパン三世 カリオストロの城』、通称「カリ城」である。モンキー・パンチ原作の人気アニメ『ルパン三世』の劇場長編第2弾。TVシリーズで高畑勲の演出をサポートした宮崎駿が、本作で劇場監督デビューを果たした。作画監督は、『未来少年コナン』でも宮崎とタッグを組んだ伝説的アニメーター・大塚康生。
 TVアニメ『ルパン三世』の革新性の1つは、アニメの画面に「実在する銃や車」を持ち込んだリアリズムだ。TV版では豪勢なベンツだったが、「カリ城」のルパンは、小粋なフィアットに乗る。後席に山積みされた「カップうどん」は、前述したように、当時まだ目新しい存在だった。新しいジャンクフードをポップなアイテムとして歓迎する若者特有の傾向を思えば、「カップうどん」もフィアット同様、本作を彩る洒落た小道具の仲間と映ったかもしれない。一方、ルパンに「さすが昭和一桁」とバカにされるライバル・銭形警部は、劇中でカップラーメンを食べている。こちらは比較的古いジャンクフードだ。その描き分けも興味深い。
 実銃に目を向ければ、ルパン三世の代名詞とも言える拳銃「ワルサーP38」は今回登場しない。ルパンの相棒・次元大介も早撃ちガンマンのキャラクターを捨て、「対戦車ライフル」で武装する。なぜ、人間相手に対戦車装備なのか?「カップうどん」、「武田鉄矢」、「戦車が怖くて……」……いや、全然分からない。うどんの話は、もう止めよう。
 古典的ジャンル「漫画映画」と、ティーン向けに発達した「アニメ」とは、支持層が微妙に異なる。「カリ城」は、その両者に歓迎された特別な作品でもあった。SFブームの渦中で孤軍奮闘し、興行的には振るわなかったものの、見るべき者は見ていたというべきか。当時は、芸術指向の強い実験アニメの独壇場とみなされていた「大藤賞」を受賞、その快挙にファンは色めき立った。また、ヒロイン・クラリスの造形は、「エヴァンゲリオン」の庵野秀明を世に出したアマチュアアニメ「ダイコン3」に引用されるなど、クリエイター予備軍を含むアニメファンに強い衝撃を与えた。
 その後、国民的アニメ監督へと登りつめた宮崎駿。彼の健康&自然志向は有名だが、タバコとカップ麺は例外的に好むようだ。最新作『崖の上のポニョ』にもカップ麺は登場するし、『もののけ姫はこうして生まれた』では、監督本人のカップ麺を食べる姿が映っている。4ヶ月という制作期間の短さでも知られる「カリ城」当時はどうだっただろうか?宮崎は、本作完成後、映画のための調査期間が取れず、自分の引き出しの中にある物しか使えなかった事を反省している。それは東映動画時代に培った漫画映画的手法であり、愛用のシトロエンであり、もしかしたら「カップうどん」の事でもあったかもしれない。いや、うどんの話は、もう止めよう。
 人間は、身体と心の二元論で存在する。まるで「カップうどん」が、容器と麺に分けられるように。一旦脱線するが、エヴァンゲリオン芸人として知られる「オリエンタルラジオ」の中田敦彦は、アイドルグループ「ももいろクローバー」が大好きだ。彼女らのデビュー曲『行くぜっ!怪盗少女』は、アニメ『日常』OPテーマでお馴染み前山田健一の手がけた曲として再度注目を集めている。その歌詞「♪今夜まるっと、あなたのそのハートいただきます!」は、「カリ城」の有名なセリフに着想を得ている。
 終盤、銭形警部がクラリスに告げる「あなたの心です!」の名セリフ。あの場面が印象深いのは、セリフの強度はもちろんだが、ミステリ小説における「叙述トリック」の効果が観客に作用しているからではないだろうか。ちなみに叙述トリックとは、作品の語り口によって読者に対する情報操作を行い、何かを隠したり騙したりといったミスリードを促す手法だ。「カリ城」には、アニメによくみられる「心の声」を発声する手法、「モノローグ」が存在しない。本作は、客観的なアクションと口から出た台詞の積み重ねによってのみ成立し、キャラの内面「こころ」には常に距離をおく。隠していると言ってもいい。ところが、ラストの銭形警部のセリフによって、ベールに包まれていた「こころ」の存在が急浮上。観客は、突如目の前に現れた「クラリスの内面」へとダイナミックに肉薄する。その鮮やかな演出に、僕たちは心打たれる。うどん職人が麺を打つように、バシン!バシーン!と。

※一言補足
視点と展開のおもしろさと、細部の論理が薄氷を踏むような様子が両輪になってる原稿。もちろん当日はそこのところについて意見が出たわけです。
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