1人は損害賠償 4人は請求却下

b4dcbaba6138b29ba314eeb1e4bdba7f93503f8a 自衛隊情報保全隊による国民監視の差し止めを東北地方の市民らが求めた訴訟の控訴審判決が2日、仙台高等裁判所(古久保正人裁判長)でありました。判決は、原告のうち1人について憲法13条(個人の尊重)で保障するプライバシー権を侵害したとして情報収集の違法性を明確に認定し、一審に引き続き国に10万円の損害賠償を命じました。一審で勝訴した残り4人は逆転敗訴となり、差し止め請求も却下されました。しかし控訴審で、自衛隊の監視行為の一部を違法と断罪したことは、「戦争する国づくり」をすすめる安倍政権に打撃となります。

 同訴訟は、自衛隊のイラク派遣反対運動などを監視され、表現の自由やプライバシー権が侵害されたとして訴えたもの。一審仙台地裁は2012年3月、原告のうち5人についての情報収集は違法だとして国に賠償を命じました。

 勝訴したのは芸名で歌手活動を行っている宮城県の男性。平和を訴えた路上ライブなどを監視され、公表していない本名や勤務先を保全隊に情報収集されました。高裁判決は、プライバシー権が憲法上の権利だと明示して「(同原告への)プライバシーに係る情報の収集、保有は違法」と断じました。

 また保全隊が「国民春闘」や「小林多喜二展」など自衛隊と無関係なものまで監視対象としていることを「必要性が満たされない」と無制限な情報収集に歯止めをかけました。

 逆転敗訴した4人については、議員など「公的立場」にあることを理由に「情報は秘匿性に乏しい」と、人権への理解が不十分な判断をしました。しかし、「必要性もないのに議員個人に着目して継続的に」情報収集すると「違法性を有する場合があり得る」と指摘しました。

 判決後の報告集会で後藤東陽原告団長は「裁判所が自衛隊の監視活動を違憲だと認めてくれた。勇気百倍。これからも平和運動に頑張っていきましょう」と訴えました。

 情報保全隊 防衛相直轄の情報部隊。防衛秘密の保護と漏えい防止が表向きの任務ですが、実際の中心的任務は市民の平和運動などを監視することです。陸海空の3自衛隊にあった情報保全隊は2009年に「自衛隊情報保全隊」に再編・強化されました。同隊による国民監視の実態は07年6月、日本共産党が同隊の内部文書を公表。違憲・違法な活動を告発して明らかになりました。

解説

裁判官全員交代でも変わらず

 国民監視差し止め訴訟の仙台高裁控訴審判決で、一審に引き続き監視活動の違法性を認定する判断が出されたことは、「戦争する国づくり」をめざす安倍政権に痛打を浴びせるものです。

 控訴審では、陸上自衛隊情報保全隊の鈴木健元隊長と、同隊を指示する立場にある陸上幕僚監部の末安雅之元情報保全室長の法廷尋問を実現しました。

 そのなかで、情報保全隊が広範な市民の運動を「反自衛隊活動」と敵視し、執拗(しつよう)な監視を続けていることが改めて浮き彫りになりました。

 ところが、判決が近づくと熱心に審理を進めていた裁判長をはじめ、3人の裁判官が全員交代するという極めて異例の事態に。原告側は、公正な審理を行うために鈴木氏らの再尋問を求めましたが、新裁判長は認めませんでした。

 そうした状況下での判決でしたが、監視活動の違法性認定は覆りませんでした。

 憲法に反し市民のプライバシーを侵害する行為は、現憲法下では絶対に認められないからです。国、防衛省・自衛隊はその重みをかみしめ、国民監視をただちにやめるべきです。

 (森近茂樹)