主張
診療報酬16年改定
「医療の質」崩す削減許されぬ
2016年度政府予算案の編成作業で大きな焦点になっている診療報酬の改定総額を決める政府内の議論が大詰めです。診療報酬は公的医療保険が対象とする医療サービスの価格です。社会保障費の大幅削減を推進する安倍晋三政権は、診療報酬の「マイナス改定」を行う構えを強めています。日本の医療現場はすでに、診療報酬を削減・抑制する政治が長年続くことで疲弊を深め、患者に十分な医療を提供できない事態まで起きています。医療従事者にも患者にも、いっそうの困難を強いるマイナス改定は国民の願いに反します。
「マイナスありき」の暴走
公的医療保険財政から医療機関に支払われる診療報酬は原則2年に1度改定されます。報酬総額の改定率は12月中に内閣が決め、診療や薬ごとの価格は、厚生労働相の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)の議論を通じ、年明けの2月中に決定されます。
安倍政権は16年度予算案の編成に際し、最初から「診療報酬マイナス改定ありき」の姿勢を示しています。今年8月の概算要求では、社会保障費の増額分を15年度に比べて1000億円以上減らし6700億円増しか認めませんでした。さらに財務省は削減幅がまだ足りないと、今月中に閣議決定する政府予算案で増加分を5000億円にまで減額することを強く要求しています。削減の大部分をまかなわせる対象として政府が目を付けたのが診療報酬です。診療報酬改定以外に大きな制度変更がないことが最大の理由とされています。
これほど不当なやり方はありません。高齢化や医療技術の進歩などで日本の社会保障費は年1兆円程度「自然増」するとされています。それを無理やり半減させること自体、乱暴極まるものです。そのうえ機械的に決めた削減額を絞り出すために、ほかに削減するところがないからと、国民の医療を支える診療報酬を狙い撃ちすることにまったく道理はありません。
自民・公明政権の「社会保障費一律削減路線」の下で02~08年度に繰り返された診療報酬の大幅マイナス改定は、各地で深刻な「医療崩壊」を引き起こしました。その後も抜本的なプラス改定は行われていません。前回14年度改定も消費税増税のもとで実質マイナス改定となり、多くの医療機関で経営が悪化している実態は、厚労省の調査からも明らかです。
地域の医療機関の体制縮小・撤退、診療科の閉鎖などで被害を受けるのは住民です。保険給付の範囲を狭めるとして湿布薬などを公的保険の対象から外す動きは、患者に負担増を強いるとともに適切な健康管理に逆行するものです。「医療の質」を揺るがし「医療崩壊の再来」の引き金になる診療報酬マイナス改定は許されません。
政治の姿勢を変えてこそ
安倍政権は16年度予算案で軍事費を引き続き増額し過去最大にする構えです。財界の求めに応じ法人実効税率の20%台への引き下げも前倒しで実施しようとしています。法人実効税率を1%下げるための財源は約5000億円とされています。これにたいし診療報酬を1%下げることで確保できる国費は約1000億円です。いったい誰に顔を向けた政治なのか。
軍拡と大企業優遇のため、医療・社会保障を犠牲にする安倍政治からの転換が急がれます。
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