「安保法案反対最大デモ」と注目された8月30日の戦争法案反対「国会10万人、全国100万人大行動」。この歴史的大事件をテレビ、とくにNHKはどう報じたか。参加者ならずとも関心を持つところです。際立ったのは、NHKの他メディアと比べて異常なまでの「安倍政権の顔色うかがい」ぶりでした。

 当日夕、日本テレビ系の「真相報道バンキシャ!」は「安保法案成立阻止を 国会周辺で大規模な集会」というタイトル。集会そのものを若者の声を軸にストレートに報じました。「30日、この日の大きな出来事は何か」というオーソドックスな視点といえました。

思惑ありあり

 一方、NHK「ニュース7」は、当日の番組表では「安保法案反対の集会」をトップに掲げてはいました。ところが番組での集会の扱いは、タイのテロ事件、スズキ自動車の経営動向に続いて3番目。しかもタイトルは「安保法制」というくくり方でした。

 まず衆参両院での法案審議時間を並べ、政府自民の「採決日程」展望、それから東京や全国の集会・デモの紹介という順序でした。その後再び政府・与党に話を転じて「今国会成立」という意向を伝えた後、8分間の放送の最後を、自民・谷垣幹事長の「野党の言い分はためにするひぼうだ」「この国会でなんとしても成立を」という発言で締めくくりました。“この日の集会そのものをストレートに伝えたくない”“政府・与党の顔を立てなければ”という思惑がありありとにじみ出る報道ぶりでした。

 NHKの「安倍政権の顔色うかがい」ぶりは翌31日も露骨でした。朝、昼のニュースでは8・30大行動はまったく放送せず。夕方の情報番組「ニュースシブ5時」では、集会参加の40代、50代女性の思いに触れたものの、そのあとに解説委員が登場しました。

政府の言い分

 解説委員は「私も昨日の集会をのぞいてみた」と前置き。「この法案の見方は立場によって百八十度変わる」と一般論を口にしつつ、アナウンサーからの「不安の声が強いようですが」の問いかけに、政府はこう言っているという説明を長々と述べました。多くの視聴者は、“集会をのぞいたというなら、そこで見聞きしたことと、あなたのとらえ方を伝えてよ。それがジャーナリストの責務でしょ”と言いたくなったことでしょう。

 ちなみに31日TBS「NEWS23」の膳場貴子キャスターは、自ら集会会場を回って何人もの参加者にインタビューしていました。

 NHKの「政府の顔を立てる」姿勢は、31日夜の「ニュースウオッチ9」でも顕著でした。集会場面は一瞬で、あとは「今国会で成立を」という自民役員会、自民と次世代の党などとの「修正協議」報道に時間をついやしました。

 同夜のテレビ朝日「報道ステーション」、TBS「NEWS23」はいずれも海外メディアの報道ぶりも伝え、参加者の声をリアルに紹介していました。民放との対比も含め、NHKニュース報道の特異な立ち位置が改めて浮き彫りになりました。

 (小寺松雄)