主張
株変動と日本経済
「基調はよい」と楽観できない
先週以来の世界的な株価の急落のなかで東京証券取引所の平均株価も1週間連続で下落する大幅変動を記録しました。平均株価は2万円を超えていた6月に比べ、一時3000円も下がりました。世界的な株価下落の引き金になった中国での金融緩和などもあって株価の下落は一段落していますが、いぜん動きは不安定です。金融市場は国際的に連動しており、株価下落も外国の投資家などによる投機が大きな要素ですが、日本経済の現状や先行きも重要です。「ファンダメンタルズ(基調)はいい」(安倍晋三首相)などと楽観を決め込んでいることはできません。
「アベノミクス」の限界
安倍政権は第2次政権発足以来、財政支出と金融緩和、「規制緩和」など3本柱の経済政策「アベノミクス」に取り組み、円安による企業収益の回復と株高を景気回復の“牽引(けんいん)車”に位置づけてきました。安倍首相が株価の変動を示すグラフを官邸の執務室に掲げ、内閣支持率とともに株価に注目してきたのは有名な話です。
東京市場の株価は2012年末の政権発足直前には8600円台でしたが、円安が進むとともに上昇して1万円台の後半を記録、昨年からは中国経済の成長が鈍ってきたこともあって値下がりした時期もありましたが、今年になって再び上昇し、2万円台を記録しました。安倍政権が円安や法人税減税などで大企業のもうけを増やし、そのうえ日銀に国債を買い上げさせて市中に資金を提供し、年金の積立金まで株式投資に動員するなど、「株価第一」の政策を進めてきたことが背景にあります。
株価の下落はこうした安倍政権の政策が壁にぶちあたったことを示すものです。株安と同時に円高も進みました。円安・株高のもくろみが崩れ、株安・円高が進めば、株高でうるおったといわれる一部の大資産家の消費も鈍り、海外からの旅行者がもたらす買い物などの効果も減りかねません。実体経済への影響も軽視できません。
日本経済は、昨年の消費税増税に加え、円安による物価の上昇によって、国民の消費が急速に落ち込んでいます。大企業は円安で大もうけしてもそれを賃上げや下請け単価の引き上げで還元していないため、日本経済の土台そのものが急速に弱まっています。昨年の消費税増税後、昨年4~6月期、7~9月期と2期連続でマイナスとなった国内総生産(GDP)は、その後わずかな期間プラスになっただけで、今年4~6月期には再びマイナスになりました。
株価の変動が、大企業のもうけ最優先の間違った経済政策、「アベノミクス」の破綻とゆきづまりを浮き彫りにするのは明白です。
暮らし・経済立て直しこそ
株安や円高が今後どうなるのかは予想できませんが、株が下がったからといって、資金供給を拡大するため金融緩和を拡大したり、「景気刺激」のため財政支出を拡大したりするといった対策で問題が解決しないのは明らかです。これ以上の金融緩和はインフレを再燃・拡大するだけだとか、財政危機はもう限界だという声が政権周辺からも聞かれます。
大企業・大資産家のための「株価第一」の政策ではなく、国民の所得を増やし消費を拡大して、くらしと経済を本格的に立て直す政策への転換こそが不可欠です。