主張
集団的自衛権行使
首相が掲げた口実は総崩れだ
在留日本人を輸送中の米艦防護、中東・ホルムズ海峡での機雷掃海…。安倍晋三首相が、戦争法案でなぜ集団的自衛権の行使を可能にする必要があるのかを説明するため繰り返し持ち出す事例です。ところが、この間の参院審議などを通じ、首相が挙げてきたこれらの口実は総崩れしています。戦争法案は、日本が武力攻撃を受けていないのに、海外での武力行使に道を開き、憲法9条を根底から破壊する違憲立法です。法案の口実さえ破綻している今、廃案しかないことはいよいよ明白です。
「邦人乗船、絶対でない」
戦争法案は、米国など日本と密接な関係にある他国に対して武力攻撃が発生することにより、日本の存立が脅かされる明白な危険がある「存立危機事態」になれば、集団的自衛権を発動し、武力の行使ができるとしています。
安倍首相は昨年7月、集団的自衛権の行使を認めた閣議決定の際の記者会見で、海外の紛争地から逃れる日本人の母子を乗せた米艦が攻撃を受けているイラストを掲げ、「日本人の命を守るため、自衛隊が米国の船を守る。それをできるようにするのが今回の閣議決定だ」と語っていました。
ところが、26日の参院安保法制特別委員会の質疑で、野党議員が、首相の示したイラストのどこが「存立危機事態」に当たるのかとただしたのに対し、中谷元・防衛相は「邦人が(米艦に)乗っているか、乗っていないかは(事態認定の条件として)絶対的なものではない」と答弁し、集団的自衛権行使の判断は米艦で避難する日本人を守るという理由だけではできないとの認識を示しました。
中谷防衛相はイラストについて「存立危機事態と認定されれば(日本人の保護も)可能になってくるという説明のために使われた資料」だとも述べました。米艦に乗った日本人を守ることが法案の目的ではなく、「存立危機事態」を口実に、海外で戦争をしている米軍を支援するのが本当の狙いであることは明らかです。
首相は、集団的自衛権行使の具体例としてホルムズ海峡での機雷掃海も挙げています。しかし、イランの安全保障政策の責任者であるアリ・シャムハニ最高安全保障委員会事務局長は「ホルムズ海峡は地政学的に重要。開かれた、静かな海域にするべく最善を尽くしている」と述べ、機雷封鎖を否定しています(「朝日」27日付)。
首相は、弾道ミサイル警戒中の米イージス艦防護という例も示しています。ところが、米艦は艦隊を組み、自前で防衛態勢を敷くのは常識です。横畠裕介内閣法制局長官は「イージス艦自身が米国の艦船によって十分防護されている状況下であれば、わが国として武力を行使する必要性まではない」(26日、参院特別委)と述べており、首相の説明は揺らいでいます。
危険と欠陥が次々あらわ
参院審議ではこのほか、米軍に対する自衛隊の兵(へい)站(たん)でクラスター弾など非人道兵器や核兵器の輸送まで法律上は可能な「歯止め」のなさや、統合幕僚監部の内部資料に示された米軍指揮下での自衛隊の暴走など、法案の危険性や欠陥が次々あらわになっています。
追い詰められているのは安倍政権です。空前の高まりを示す国民のたたかいを一層強め、必ず廃案に追い込もうではありませんか。