主張
岩手いじめ事件
命の叫びがなぜ共有されない
岩手県矢巾町立中学校の男子生徒が自ら命を絶った事件で、同中学校は「いじめが自殺の一因」とする調査報告書をまとめました(7月26日)。学校側は、6件のいじめがあったことを認めましたが、「(当時は)いじめという認識をもっていなかった」といいます。なぜ生徒の訴えが受けとめられず、対応がされなかったのかなど、肝心な点はあいまいです。このような事件を二度と起こさないために、徹底して真相を解明し、教訓をくみとることが必要です。
必死の訴え何度もあった
今回重大なことは、自殺した男子生徒が担任と交わす「生活記録ノート」に、「実はボクさんざんいままで苦しんでたんスよ?なぐられたりけられたり首しめられたり」「もう市(死)ぬ場所はきまっているんですけどね」などと何度も書いていたことです。いじめられ、死を考えていることを、必死の思いで訴えていたのです。
2011年の大津市いじめ自殺事件では、被害生徒が担任に「いじめではない」といい、翌週アンケートをして対応することとなり、深刻な手遅れとなりました。ところが今回は生徒が“いじめられている、死にたい”と何度も書いたにもかかわらず、手だてがとられませんでした。これでは、子どもたちは本当に救われません。
報告書によると、担任は男子生徒を「常に気遣い、配慮してきた」といいます。「ノート」で交わした言葉以外にもさまざまな声かけをし、話を聞いていました。
しかし、そうした気遣いが、なぜいじめ認知につながらなかったのか、わかりません。さらに疑問は、担任はなぜ周りに相談しなかったのかです。その点を検証しなければ同じことが繰り返されてしまいます。今後の第三者委員会で事実関係を明らかにし、全国で共有できるようにしたい点です。
「いじめかな」と少しでも疑いがあれば、ただちに全教職員で情報を共有し、命を最優先にするすみやかな対応が必要なことは、数々のいじめ事件から導きだされた重要な原則です。日本共産党も12年に発表したいじめ問題についての「提案」でこの原則を強調しました。この点がより具体的に深められなければなりません。
同校は昨年から「いじめはゼロ」と報告していました。校長は会見で「個々の教員が話をしやすい環境を私の方でつくれなかった」とのべました。校長について報告書は「部活動も盛んで、落ち着いた学校という意識を持っていたが、それに伴う過信、心の隙のようなものがあった」としています。教職員みんなが、子ども一人ひとりのことを温かく語り合いながら丁寧に育てる。そんな原点を大事にする学校が必要です。
報告書では、1学級40人近い生徒と少ない時間の中でやりとりする教職員の姿が浮かび上がります。政府は、誰もが指摘する教員の超多忙化の解消など、条件整備に正面からとりくむべきです。
おとなが真剣に向き合い
事件のあった学校では、生徒たちがいじめをなくすために自主的な行動を始めているといいます。「いじめをなくしたい」という願いは多くの子どもにあります。子どもの中にいじめを止める人間関係をつくるとともに、おとなが真剣に事件に向き合い、事実を明らかにすることが求められています。
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