中谷元(げん)防衛相は21日の閣議で2015年版防衛白書を報告し、了承されました。今年の白書は、衆院を通過したばかりで成立してもいない戦争法案の説明に本文中の10ページを割くという異例の記述ぶりになりました。憲法違反との批判が噴出している同法案を先取りで既成事実化するもので、防衛政策の基本について国民の理解を得るという白書の建前を投げ捨て、安倍政権の政治宣伝冊子に成り下がっています。
白書は戦争法案について、昨年7月の「閣議決定」を踏まえ、安倍晋三首相から「法制の整備に向け、直ちに作業に着手するよう指示」があったことを強調。既存の安全保障法制を全面的に書き換える「一括法」と海外派兵恒久法の内容を詳述しています。一方、現行の安保法制については、戦争法案の記述の後に5ページしか記述していません。
沖縄の米軍基地問題では、名護市辺野古への新基地建設が普天間基地(同県宜野湾市)の「継続的な使用を回避するための唯一の解決策という考えに変わりはない」と強調。昨年11月の県知事選などの一連の選挙で示された「辺野古ノー」の圧倒的民意を一顧だにしない姿勢を示しました。
沖縄県の第三者委員会が「法的に瑕疵(かし)がある」と結論を出した辺野古埋め立て承認などについても、「十分に時間をかけて手続きを進めてきた」と正当化しています。さらに、「沖縄に在日米軍基地が集中する現状は、県民にとって大変大きな負担となっている」との現状認識の記述を削除しました。
戦争法案と辺野古新基地建設という安倍首相の対米公約を、国民の圧倒的な反対世論を踏みにじってでも推進する姿勢を鮮明にしています。
一方、戦争法案と連動して、白書は安全保障環境の悪化を強調しています。中国の海洋活動については、「高圧的とも言える対応を継続させ、一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢」と批判。南沙(なんさ)諸島での埋め立てや、東・南シナ海の天然ガス採掘などの動向を取り上げ、記述量を大幅に増やしました。
例年の白書は、1年間の国内・国際情勢の変化を受け、「脅威」に対する認識や各国の動向、政府方針の記述が少しずつ加筆・改訂されています。しかし、沖縄の米軍基地問題に関する記述ぶりは、昨年11月の県知事選で辺野古反対の翁長雄志氏が辺野古容認の仲井真弘多氏に勝利したことで、手の平を返したような強硬姿勢に変わっています。
14年版は「(仲井真氏の)要望を沖縄県民全体の思いとしてしっかりと受け止め」「沖縄の負担軽減に一丸となって取り組んでいる」などと、知事を後押しする記述が目立っていました。
しかし15年版は、普天間基地(同県宜野湾市)の固定化回避は「政府と沖縄の皆様の共通認識だ」、辺野古新基地は「沖縄の負担軽減に十分資する」などと一方的に決めつける首相や菅義偉官房長官の“常とう句”を盛り込むとともに、沖縄の民意を尊重するかのような言葉は跡形もなくなっています。
戦争法案を正当化するための、中国「脅威」論の記述増も、政権の意向を強く反映したものです。今月7日の自民党国防部会では白書に対して、「中国の記述が少ない」などと問題視する声が出され、東シナ海での天然ガス採掘に関して、日中中間線の中国側に「新たな海洋プラットフォームの建設作業などを進めている」との記述が急きょ書き加えられました。
また白書は、「アフガニスタンおよびイラクにおける2つの戦争が終息に向かい、米国の世界への関わり方が変化しつつある」と初めて指摘し、米国の軍事覇権主義に“陰り”が生じていることを認めました。
一方、「米国は厳しい財政状況の中においても、引き続き世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果たしていくものと考えられる」と述べ、米国中心の世界秩序維持のために日米同盟強化で覇権主義を下支えする姿勢に固執しています。
(池田晋)
白書は戦争法案について、昨年7月の「閣議決定」を踏まえ、安倍晋三首相から「法制の整備に向け、直ちに作業に着手するよう指示」があったことを強調。既存の安全保障法制を全面的に書き換える「一括法」と海外派兵恒久法の内容を詳述しています。一方、現行の安保法制については、戦争法案の記述の後に5ページしか記述していません。
沖縄の米軍基地問題では、名護市辺野古への新基地建設が普天間基地(同県宜野湾市)の「継続的な使用を回避するための唯一の解決策という考えに変わりはない」と強調。昨年11月の県知事選などの一連の選挙で示された「辺野古ノー」の圧倒的民意を一顧だにしない姿勢を示しました。
沖縄県の第三者委員会が「法的に瑕疵(かし)がある」と結論を出した辺野古埋め立て承認などについても、「十分に時間をかけて手続きを進めてきた」と正当化しています。さらに、「沖縄に在日米軍基地が集中する現状は、県民にとって大変大きな負担となっている」との現状認識の記述を削除しました。
戦争法案と辺野古新基地建設という安倍首相の対米公約を、国民の圧倒的な反対世論を踏みにじってでも推進する姿勢を鮮明にしています。
一方、戦争法案と連動して、白書は安全保障環境の悪化を強調しています。中国の海洋活動については、「高圧的とも言える対応を継続させ、一方的な主張を妥協なく実現しようとする姿勢」と批判。南沙(なんさ)諸島での埋め立てや、東・南シナ海の天然ガス採掘などの動向を取り上げ、記述量を大幅に増やしました。
対米公約推進の政権色反映
米覇権主義に追随
2015年版防衛白書は、戦争法案の制定と、沖縄県名護市辺野古への米軍新基地建設という安倍晋三首相の二大対米公約の推進路線が色濃く反映された内容となりました。例年の白書は、1年間の国内・国際情勢の変化を受け、「脅威」に対する認識や各国の動向、政府方針の記述が少しずつ加筆・改訂されています。しかし、沖縄の米軍基地問題に関する記述ぶりは、昨年11月の県知事選で辺野古反対の翁長雄志氏が辺野古容認の仲井真弘多氏に勝利したことで、手の平を返したような強硬姿勢に変わっています。
14年版は「(仲井真氏の)要望を沖縄県民全体の思いとしてしっかりと受け止め」「沖縄の負担軽減に一丸となって取り組んでいる」などと、知事を後押しする記述が目立っていました。
しかし15年版は、普天間基地(同県宜野湾市)の固定化回避は「政府と沖縄の皆様の共通認識だ」、辺野古新基地は「沖縄の負担軽減に十分資する」などと一方的に決めつける首相や菅義偉官房長官の“常とう句”を盛り込むとともに、沖縄の民意を尊重するかのような言葉は跡形もなくなっています。
戦争法案を正当化するための、中国「脅威」論の記述増も、政権の意向を強く反映したものです。今月7日の自民党国防部会では白書に対して、「中国の記述が少ない」などと問題視する声が出され、東シナ海での天然ガス採掘に関して、日中中間線の中国側に「新たな海洋プラットフォームの建設作業などを進めている」との記述が急きょ書き加えられました。
また白書は、「アフガニスタンおよびイラクにおける2つの戦争が終息に向かい、米国の世界への関わり方が変化しつつある」と初めて指摘し、米国の軍事覇権主義に“陰り”が生じていることを認めました。
一方、「米国は厳しい財政状況の中においても、引き続き世界最大の総合的な国力をもって世界の平和と安定のための役割を果たしていくものと考えられる」と述べ、米国中心の世界秩序維持のために日米同盟強化で覇権主義を下支えする姿勢に固執しています。
(池田晋)
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