主張

年金情報の流出

不安と疑念は広がるばかりだ

 日本年金機構のコンピューターが外部からインターネットメールで送られたウイルスに感染し、判明しただけで約125万件もの年金個人情報が流出した問題で、国民の不安と怒りは広がる一方です。安倍晋三首相は、年金機構のシステムなどに「問題があった」と述べましたが、ずさんな対応は年金機構だけではありません。厚生労働省が手だてを講じていなかったことなどが次々と明らかになっています。公的年金という「国民の財産」を管理運営する責任への自覚がどれほどあったのか。安倍政権の姿勢が問われています。

年金不信にさらに拍車

 情報漏えい発覚後初の年金支給日となった15日を、受給者は大きな不安のなかで迎えました。年金機構への問い合わせは数十万件にのぼっています。事件に便乗した詐欺被害まで出てしまいました。NHK世論調査で76%が情報流出と悪用に「不安を感じる」と答えたのは、あまりに当然です。

 国の公的機関から125万件もの個人情報が流出したことは前例がありません。「国民皆年金」への信頼を揺るがす深刻な事態です。

 国民の不安と疑念を増幅させているのが、年金機構と厚労省の事件発生後のお粗末な対応です。機構が問題を公表したのは、ウイルス感染の判明から20日以上もたってからです。しかもインターネットメールとの接続も「業務に支障がでる」などの理由で、完全に遮断されるまでかなりの日数がかかりました。年金の加入者・受給者の個人情報の保護が置き去りにされたといわざるをえません。

 国会質疑では、機構と厚労省はネットとの遮断の日時をごまかし続け、再発防止にとって大事な情報であるウイルスメールの種類すら公表しないなど不誠実な態度に終始しています。これでは検証すらできず再発防止にもつながりません。機構と厚労省は、検証委員会などに「丸投げ」する態度をあらため、国会や国民に必要な情報を公表することが必要です。

 厳格な管理が求められる年金の個人情報を、外部に接続できるコンピューターであつかうなど機構のシステムや業務は、まったくずさんです。情報流出の背景には、基幹業務で労働者の非正規雇用をすすめ、業務の外部委託を広げてきた日本年金機構の運営方針の問題があります。機構の業務の検証・見直しは不可欠です。

 厚労省の外局だった社会保険庁の解体・民営化を決めて、機構づくりをすすめたのは2007年の第1次安倍政権です。当時約5000万件の持ち主不明の年金記録問題が発覚するなかで、年金実務に習熟した労働者の解雇や民営化などによって個人情報の漏えいが広がる危険を指摘する声があったにもかかわらず、強行したのです。このときの内閣官房長官は塩崎恭久厚労相でした。当事者としての責任はまぬがれません。

マイナンバーは中止を

 今年10月から日本に住民票をもつ全員に生涯不変の番号を割り振り、来年1月から税・社会保障分野で国が管理を強めるマイナンバー制度に国民の不安の声が広がっています。マイナンバーの中止こそ検討すべきです。

 厚生労働行政の根幹にかかわる年金情報流出問題を徹底解明することなく、労働者派遣法改悪案を押し通すのは絶対許されません。