主張
医療保険の大改悪
国保の危機深める逆行やめよ
体調が悪いのにお金がなく、医療機関にかかるのを我慢し続け、ようやく受診したときは手遅れで命を失う―。こんな痛ましい事態が後を絶ちません。全日本民医連の調査では、「受診遅れ」で死亡した人は昨年だけで、全国で56人にのぼります。高すぎる国民健康保険料(税)が払えず無保険になったケースなどです。医療費の負担軽減こそ急務なのに、国会で審議中の医療保険制度改悪法案は、国民負担増をさらに求める内容です。命を脅かす逆行は許されません。
深刻な「受診手遅れ死」
1人暮らしの60代男性は収入が少なく国保料を滞納し、正規の保険証が交付されず、窓口負担10割の「資格証明書」となっていました。食欲不振・体重減少となり、知人に促され有効期間の短い「短期保険証」をなんとか取得し受診したものの、胃がんなどがすすんでおり、その1カ月後に亡くなりました。会社退職後に経済的余裕がなく国保未加入だった40代男性は、不調を感じながらも我慢していたところ救急搬送されるまで悪化し、入院8日後に死亡しました。
全日本民医連が発表した「受診遅れ死亡事例」はいずれも深刻です。同調査は毎年実施していますが、近年の死亡人数は年間約70~50人と高水準です。これらは民医連の事業所だけの調査であり「氷山の一角」だけに重大です。
浮き彫りになっているのは、国保の機能不全です。市町村が運営する国保は、自営業者や失業者など被用者でない人たちの命と健康を守るための公的医療保険として1961年に始まり、それによって「国民皆保険」が実現しました。
ところがいま保険料(税)が高すぎるため、全国で360万を超す世帯が保険料を滞納し、多くの人が正規の保険証を交付されず、必要な医療から排除されるという、「皆保険」の空洞化ともいうべき事態を引き起こしています。
この現状をますます悪化させるのが、安倍晋三政権が今国会で成立を狙う医療保険制度改悪法案です。改悪法案は、国保の財政運営を市町村から都道府県に移管するのが柱の一つですが、そこには保険料の住民負担を引き上げる仕組みが盛り込まれています。
都道府県が市町村に「標準保険料率」を示したり、「納付金100%納付」を義務付けたりすることは、市町村に保険料を上げさせる圧力になるものです。過酷な保険料徴収がさらに強まる危険もあります。市町村が独自に実施している保険料軽減のための財政措置の縮減・廃止までも狙っています。
国保料高騰は滞納世帯をさらに増加させ、国保の危機を深刻化させるだけです。暮らしと健康、命を脅かす改悪はやめるべきです。
住民の命を守る制度に
所得の低い人たちが多く加入する国保の保険料が負担能力を超えるほど高い大きな要因は、国庫負担を大幅にカットしてきたためです。国保の構造的危機を打開するためには、矛盾を激化させる「都道府県化」ではなく、国庫負担の抜本的引き上げなどが必要です。
国保改悪をはじめ入院給食費の負担増など国民負担増を次々と盛り込んだ医療保険制度改悪法案を衆院でのわずかな審議で可決を強行した自民、公明、維新などの責任は重大です。参院での徹底審議とともに、世論と運動を広げ、廃案に追い込むことが重要です。