問題の印刷物は、大阪市をなくして五つの特別区を設置することの是非を問う住民投票(17日投票)に向けて市が作製したもの。「特別区設置協定書」について説明するA4判40ページ(表紙含む)のパンフレット、4ページのビラ、2ページのビラの3種類。それぞれ160万部以上、計約500万部にのぼります。
本紙が入手した市の資料によると、3種類のデザイン、印刷業務を3月下旬に受注し、4月中に市に納品したのは、東大阪市に本社のある中堅印刷会社A社と系列会社です。契約額は計約2900万円にもなります。
登記簿謄本や民間信用機関によるとA社は、東大阪市と富田林市に工場を持ち、資本金5千万円、従業員67人の「大阪府下の中堅印刷業者」です。
通常は競争入札
大阪市では通常、事業発注は契約管財局を通じて行われ、印刷物などでは100万円以上は競争入札を行います。ところが今回は、「都」構想推進の中核部署である大阪府市大都市局が、自ら随意契約で発注しました。
この発注について大都市局の担当課長は、「市議会で都構想関連の印刷物の予算が通過してから作製期限まで短時間だったので、緊急の随意契約にした。地方自治法でも認められたケースだ」と説明。同法施行令の「競争入札に付することが不利と認められるとき」(167条2第1項6号)を根拠としますが、災害などの緊急時でもないのに説得力がありません。
受注の過程も不自然です。3種類の印刷物ともに複数企業が競う「比較見積もり」方式ですが、すべてでA社グループは、市の設定した非公開の予定価格を下回り、競合する企業より低い価格を提示して受注しているのです。とくに4ページビラとパンフは、予定価格を下回ったのはA社グループだけで、まさに一人勝ちです。
さらに、同業者から疑問視されているのは、40ページパンフに使用する膨大な用紙を中堅企業のA社が短時間で準備できたことです。
納期や用紙準備の都合で、大手を含めて多くの社が見積もり参加を辞退しています。
“大手でも困難”
A社の実情を知る大阪のある印刷関係者は、「A4判40ページで160万部のパンフを印刷するためには、大型トラックでも十数台分の150トン以上の用紙が必要で、大手でもすぐには用意が難しい。A社の倉庫には入りきらないほどの量だ。あの規模の会社では、絶対に受注できるという確信がない限り、事前に準備できるような量ではない」と指摘します。
A社が「比較見積もり」で競合社にすべて打ち勝ち、膨大な用紙も準備できたのはなぜか―。大阪市には、事前の情報流出の有無も含めて、市民の疑問に答える説明責任があります。そのことは、「都」構想の賛否を問うという公平さが求められる問題に関わるだけになおさらです。
A社は、本紙の取材にたいして10日までに回答を寄せませんでした。
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