にわかに強まる“解散風”。その背景にあるのは、安倍晋三首相の党略的な思惑です。

 「安倍政権の最大の目的は長期政権だ。勝てるときに選挙をやる。麻生政権で解散をできずに結局任期満了になって惨敗したのがトラウマだ」。自民党のベテラン議員は安倍首相の思惑をこう解説します。

 安倍首相は、消費税の10%増税判断を12月上旬に行うとしていました。ところが、消費税8%増税で深刻な景気の落ち込みがあらわになり、どの世論調査でも7~8割が10%増税に反対しています。増税を強行すれば国民経済への破壊的影響と国民の憤激は必至です。そこで増税の延期と「引きかえ」に解散するシナリオが浮上しました。

 さらに安倍政権は今後、川内原発をはじめとする原発再稼働、秘密保護法の施行、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を具体化する安保法制の推進、環太平洋連携協定(TPP)合意などを次々と強行する構え。どの課題も安倍政権の主要政策であり、国民多数が厳しく反対するものばかりです。その強行後に総選挙を回せば、国民の批判にあって「政権は短命で終わる」という打算があります。「大義」など二の次です。

 10日発表されたNHK世論調査では、安倍内閣の経済政策「アベノミクス」を評価するかについて「評価しない」が「評価する」を初めて上回り、期待感は剥げ落ちていることがあらわになりました。内閣支持率も前月より8ポイント下落の44%で、第2次安倍内閣発足以来最低です。

 「今しかない」という“解散政局”は、国民の世論と運動が安倍政権を追い詰めてきた結果です。「1強」などともてはやされる自民党・安倍政権の基盤のもろさを露呈しているのです。

 政府関係者の一人は「景気を見て増税を判断するといっておきながら、景気が悪いのに増税するのは難しい。アメリカも『いま増税するのはやめろ』といっている。増税を見送り経済対策を争点に選挙する」と語ります。

 増税を求める財界、財務省、自民党内の強硬論に対しては、先送りはあくまで「延期」であり、「選挙で勝てばまたチャンスが来る」という「言い訳」も隠されています。

 しかし、消費税増税は国民多数が反対しており、もともと公約違反の自公民3党合意で強行したもの。増税先送りが解散の「大義」にはなりません。増税先送りは、アベノミクスの失敗の証明でしかないのです。

 (中祖寅一)