「都」構想は断念を
橋下徹大阪市長が自らの「存在意義」と語る「大阪都」構想の「協定書」(設計図)議案が27日、大阪市議会で否決されました。違法・脱法行為を重ねて作られた「百害あって一利なし」の「協定書」を不承認としたことは、住民の負託を受けた議会として当然の判断です。(藤原直)
「議会が全部決めるのは有権者に対する冒涜(ぼうとく)だ。市民をばかにしている」。橋下氏は市議会が「協定書」を否決することについてこう非難してきました。住民投票で「住民に意思を示してもらうのが民主主義本来の姿」であり、議会がいま行うべき議論は「都」構想の是非ではなく、その後の「住民投票に付すための資料作成」にすぎないというのです。
住民のためにならないと判断しても議会は否決してはならないと言わんばかりの暴論です。「都」構想にかかわる大都市地域特別区設置法では、住民投票は、関係議会で「協定書」の承認が得られた場合にのみ実施される仕組みです。橋下氏の理屈が法を歪曲(わいきょく)していることは明らかです。
「住民の意思」を重んじているはずの橋下氏が街頭では「車(統治機構)を選ぶときにエンジンの仕組みなんか、皆さんは知る必要ありません」などと語っています。議会で指摘された数々の「協定書」の問題点から目をそらし、住民投票にさえ持ち込めば勝てると考えているのなら、それこそが、市民をばかにしています。
日本共産党の井上浩市議は23日の本会議で、市長の例えでいえば車の安全性をチェックするのが議会の役割だと指摘。「私たちは、ハンドルもブレーキもきくか分からない危険な商品を決して売りに出すわけにはいかない」と表明しました。
府市両議会での審議では「協定書」のどんな問題点がはっきりしたのでしょうか。府と市の「二重行政」を解消し年間4000億円の財源を生み出すという話はまやかしでした。大阪市を廃止して特別区を設置しても、そのこと自体で生まれる財源はないに等しいにもかかわらず、逆に初期費用だけで約600億円もかかるとされています。特別区は、最初の5年間で1071億円もの収支不足が生じると試算されています。固定資産税、法人市民税などの自主財源も府に取り上げられ、特別区は府からの財政調整交付金に依存します。歳出規模約6400億円の巨大な一部事務組合が数多くの事務を担い、住民から遠い存在となる可能性が濃厚です。区議定数は著しく抑えられ、例えば「湾岸区」(12人)では同じ人口規模の東京都北区の3分の1以下です。
ではなぜ、そこまでして大阪市を廃止するのか。大きな狙いは、大阪から関西空港まで5分、9分の時間短縮に約2500億円をかける地下鉄道「なにわ筋線」、交通量が減るなかで3000億~4000億円をかける高速道路・淀川左岸線延伸部の建設、カジノ誘致と関連整備など無駄と浪費のプロジェクトを、権限と財源を府に集中して推進することです。
橋下氏は議会の否決を真摯(しんし)に受け止め、「都」構想は断念すべきです。