主張

認知症の身元不明

安心の仕組みづくりを急げ

 身元不明者として保護され、施設などに入所したままの認知症(記憶力などの低下で生活に支障が出る状態)の人が全国に35人いることが厚生労働省の調査で分かりました。昨年度に徘(はい)徊(かい)などで行方不明になったとして全国の自治体に把握された認知症の人のうち132人がいまも見つかっていないことも判明しました。行方不明中に命を落とした人は383人にのぼります。痛ましいかぎりです。懸命に介護していた肉親が、目を離した隙に突然いなくなり、会えなくなってしまう―。こんな悲劇を生まないため、政治が大きな役割を果たすときです。

家族の力では限界

 厚労省の今回の調査は、東京都内で行方不明になった認知症の女性が今年春、群馬県の施設で7年間も「身元不明者」として暮らしていたことが判明するなど、認知症高齢者の行方不明・身元不明が大問題として表面化したことを受けて初めて実施されたものです。

 福祉施設や病院などで身元不明のまま保護されている40歳以上と推定される人は今年5月末時点で346人おり、約1割が認知症でした。うち2年以上も身元がわからない人は28人、10年以上も不明なのは6人でした。多くの人が高齢化しており、保護されたときより症状が進行している人も少なくありません。捜す側も年を重ね、日がたつにつれて条件は悪くなっています。一刻も早く身元を特定し、家族・関係者と再会できるよう行政や関係者のいっそうの努力が求められます。

 施設などにいるのは、ごく一部です。全国で認知症行方不明者と届け出られた5201人のうち、いまも100人以上の行方が分からないことは深刻です。行方不明になってただちに対応できる地域の仕組みづくりが必要ですが、今回の調査では、早期発見につながる「徘徊・見守りSOSネットワーク事業」に取り組む自治体は全体の35%程度、全地球測位システム(GPS)など徘徊探知システムを使う事業をしている自治体は19%程度です。政府は自治体まかせにせず、地域の見守りの仕組みを強化する手だてを急ぐべきです。その際、過疎地や都市部など地域のそれぞれの特徴に見合った対策が必要です。

 認知症の徘徊は、歩き慣れた道の散歩中でも突然いなくなったり、家族が注意していても、ちょっとした隙に家を出て行ったりするケースもあります。家族の力だけで対処することには限界があります。行政だけでなく、バス・鉄道などの公共交通機関事業者や商店・金融機関などの役割も求められます。困難を抱えながら介護にあたる家族が孤立し、問題を抱え込まないようにする支えも不可欠です。

介護改悪は重大な逆行

 安倍晋三政権の実行している介護大改悪は、認知症の人と家族の安全と安心の土台を壊す重大な逆行です。利用料値上げや特別養護老人ホーム入所厳格化などは個人・家族にさらに負担をもたらします。要支援などの高齢者を公的サービスから締め出す方向は、初期の対応こそ重要な認知症高齢者の症状を悪化させるものです。高齢者と家族に「自己責任」を迫る改悪の具体化は許されません。

 軽度も含め「認知症800万人」の時代、高齢者・家族が安心できる地域・社会の実現が急がれます。