主張
「健康長寿社会」
看板に隠された危険な思惑
安倍晋三政権が「成長戦略」の柱に「健康寿命の延伸」を掲げ、具体化をすすめています。誰もが健康で長生きできる社会を実現するために政府が積極的な責任を果たすというなら、国民の願いと合致しますが、安倍政権の思惑は違います。健康づくりをもっぱら個人の自己責任に任せて、公的な医療・介護費の抑制・削減を推し進めることが大きな狙いです。「健康長寿」をうたい文句に、健康を脅かす社会保障改悪路線を国民に押し付けるやり方は、とても通用するものではありません。
病気やケガは“罪”?
「健康寿命」とは、健康上の問題がなく日常生活を送れる期間を指します。日本では男性70・42歳、女性73・62歳(2010年)で、平均寿命より男性は10年程度、女性も13年程度短くなっています。今月初めの閣議に報告された厚生労働白書は、健康寿命を延ばして平均寿命との差を縮めるための「健康長寿社会の実現」を大々的に打ち出しました。
健康のまま人生の最後を迎えることは誰もが望むことですが、厚労白書がさかんに強調するのは、健康寿命と平均寿命の差が広がれば「医療費や介護給付費用を消費する期間が増大」し、短縮できれば社会保障費が減らせるなど財政的側面です。国民が健康を損なったときのリスクは社会保障制度でカバーするが、財源は限られており最終的に国民全体に負担が回るなど、病気やケガは“医療費を浪費する罪”であるかのような記述もあります。「不健康な人」は、自助努力が足りない不摂生の結果と扱われ、制度から締め出される対象にされかねません。民間企業が「健康」で大もうけする仕組みづくりの動きも見過ごせません。
政府は、国民の健康管理・予防の推進で5兆円規模の医療・介護費を抑制できると皮算用をしていますが、健康増進運動に励めば医療・介護費が減る根拠はないといわれています。「社会保障費削減」と直結させる「健康づくり運動」は短絡的な発想で危険です。
世界保健機関(WHO)は、健康を個人の問題だけでとらえるのでなく「社会的決定要因」を重視し、健康をむしばむ背景にある貧困、格差、労働環境の改善などにむけ各国政府が責任を果たすことを求めています。安倍政権の姿勢は世界の流れにも逆らいます。
安倍政権のすすめる社会保障大改悪は、国の責務を「自助・自立の環境整備」と大変質させるものです。先の国会で強行した医療・介護総合法は、要支援者外しや特別養護老人ホーム入居制限など公的医療・介護を大幅に後退させる重大な制度改悪です。長生きがつらくなるような改悪を行いながら、どこが「健康長寿社会の実現」か。あまりに無責任な姿勢です。
公的社会保障の拡充こそ
安倍政権の社会保障解体路線こそが国民の健康にとって最大の脅威です。お金がなくて病院に行けない無保険者の増大などが世界に誇る国民皆保険の空洞化に拍車をかけています。低賃金・長時間過密労働を加速させる雇用破壊は健康破壊の最たるものです。安倍政権では「健康寿命延伸」どころか、現在の平均寿命の到達点すら危うくしかねません。社会保障解体政治を大本から転換し、安心の社会保障を拡充することこそ、国民の健康長寿を保障する道です。
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