主張

戦略特区・区域会議

暮らし壊す「実験場」は不要だ

 安倍晋三政権が「成長戦略」の目玉にする「国家戦略特別区域(特区)」の具体化が加速しています。今年5月に「特区」に指定された6地域では、企業・政府・地方自治体が一体の「区域会議」が相次いで開かれ、企業などを呼び込むための規制緩和や法人税引き下げの議論が始まりました。労働者の権利を保障する雇用制度の見直しなども大きな議題です。「特区」をテコに、国民の暮らしを守るルールを壊す危険な動きです。

「法人税17%」まで要求

 国家戦略特区は、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を掲げる安倍政権が、昨年の国会で最重要法案として強行した国家戦略特区法が根拠です。大企業が大もうけできる環境づくりを、まず「地域限定」で行い、「モデルケース」として全国拡大していく狙いです。

 安倍首相は、大企業のもうけの“邪魔”になっている制度や規制を「岩盤規制」と決めつけ、「私の『ドリル』からは無傷ではいられない」などと公言し、国家戦略特区を「突破口」にすることを繰り返しています。雇用、医療、農業、教育、まちづくりなどの分野で、国民の暮らしと権利を保障している現在の仕組みに大穴を開ける容赦ない宣言です。

 安倍政権が、規制撤廃の「先行実験」を行う舞台に選んだのが「東京圏」(東京都の一定地域、神奈川県、千葉県成田市)、「関西圏」(大阪府、京都府、兵庫県)、沖縄県、新潟市、福岡市、兵庫県養(や)父(ぶ)市の6地域です。6月末から地域ごとに政府、企業代表、首長で構成する「区域会議」が次々と旗揚げされ、始動に向けた準備が進んでいます。安倍政権は、区域会議を「ミニ独立政府」と位置づけます。住民や地場産業の意見を反映させることは、二の次にされ、国の求める「規制緩和」をどう実行できるか、という政府主導による姿勢が露骨です。

 6月末に全国に先駆けて開催された「関西圏」の区域会議では、医療や教育への企業参入の拡大、地域独自の法人税の引き下げなどを課題に挙げています。「成果に連動した新たな労働時間規制」も検討するとしています。国民から厳しい批判を浴びている「残業代ゼロ」制度を「特区」で先行実施して、日本中に拡大する意図があることは明白です。

 「グローバル創業・雇用創出特区」と銘打った福岡市の区域会議では、雇用規制緩和をテーマにするとともに、日本への投資促進のために「法人税17%以下」構想を掲げました。安倍政権の目指す法人税20%台をはるかにしのぐ企業優遇です。新潟市と養父市の区域会議では、農地取得や農業経営へ企業が参入を拡大できる方策が示されました。新潟市ではローソン、養父市ではオリックス不動産が、それぞれ参加することまで決める異常な突出ぶりです。

国民守るルール強化を

 外から大企業を連れてきても、地域産業を大事に育てる観点がなければ、大企業がもうけを持ち去るだけで地域経済の発展につながらず、地域の荒廃しかもたらさないことは明らかです。

 国民の暮らしや権利を守るルールを「地域先行」で破壊し、全国におし広げようというやり方自体、なんの道理もありません。国民と地方に犠牲を強いる「国家戦略特区」は中止すべきです。