主張
首相記者会見
「国民守る」は欺瞞だらけだ
あまりに情緒的、論理矛盾に満ちた記者会見でした。
安保法制懇報告書の提出を受けた安倍晋三首相の“国民への説明”会見です。首相が検討を表明した、憲法解釈変更による集団的自衛権の行使容認に何の道理も説得力もないことの反映です。
平和主義の完全放棄
集団的自衛権の行使とは、日本が武力攻撃を受けていないのに、「他国防衛」のためとして海外で戦争をすることです。首相が会見で「これからも守り抜く」とうそぶいた「日本国憲法が掲げる平和主義」の完全な放棄です。
戦後日本の国のあり方の大転換につながる重大問題にもかかわらず、首相の会見はごまかしと欺瞞(ぎまん)に終始しました。
集団的自衛権の行使容認を正当化するため、海外の紛争から退避する邦人を輸送中の米艦防護という架空の事例を示し、「国民の命を守る責任がある」と何度も繰り返しました。首相は「こうした事態は机上の空論ではない」と強調し、根拠として真っ先に南シナ海での国家間対立や尖閣諸島をめぐる緊張を挙げました。しかし、これらの事態で米艦が邦人を救出・輸送することが想定されるのでしょうか。そんなことがあり得ないのは誰の目にも明らかです。
首相の示した事例は、朝鮮半島有事を想定したものともいわれます。しかし、そうした事態が近い将来起こる可能性はないというのが専門家の見方です。しかも、万が一にも起こった場合、日本が集団的自衛権を行使すれば、邦人を輸送する米艦の防護だけで済む問題ではなくなります。
朝鮮半島有事に介入する米軍と一体となって日本が戦争をたたかうことになるのは避けられません。首相が会見で「そんなことは断じてあり得ない」と力を込めた「日本が再び戦争をする国になる」のです。
朝鮮半島有事の邦人救出では日本政府がすでに1993年、米軍に頼らず実施する計画を立てていたという報道もあるように、この事例はご都合主義の典型です。
首相は、集団的自衛権の行使容認を念頭に「抑止力が高まり、紛争が回避され、我が国が戦争に巻き込まれることがなくなる」と述べました。そうした例として、60年に改定された日米安保条約によってアジア太平洋地域の平和が確固たるものになったかのように述べました。しかし、改定日米安保条約の下で日本が米国のベトナム侵略戦争の出撃拠点になったことや、この不法な戦争が「集団的自衛権の行使」を口実に行われたことを首相はどう説明するのでしょうか。
それは、「日本を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増している」と繰り返す首相の情勢認識とも矛盾します。「抑止力強化」の名による軍事力強化が軍拡競争に拍車を掛けているのが現実です。
地域の緊張を高める
北東アジア地域での紛争と緊張を解決する上で何よりも大切なのは、地域の平和と安定の枠組みを構築するための外交戦略です。首相の会見ではそうした外交戦略はいっさい語られず、軍事対応の強化に前のめりな姿勢だけが露骨に示されました。そうした姿勢は地域の軍事的な緊張を高めることにしかなりません。
集団的自衛権行使容認のたくらみはきっぱり断念すべきです。
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