教育委員会制度改悪法案(地方教育行政法改正案)の審議が連休明けに衆院でヤマ場を迎えます。安倍政権が成立に執念を燃やすねらいはどこに―。

「愛国心」押し付け

 「改正教育基本法の趣旨を踏まえた、バランスの取れた教科書で子どもたちが学べるようにする」。安倍晋三首相が強調するのが、歴史逆行の教科書を教育委員会に採択させ、安倍流「愛国心」を押し付けることです。

 靖国神社参拝など侵略戦争を肯定・美化する首相は、侵略戦争を「アジア解放戦争」と教える教科書を「教育基本法にもっともふさわしい」と公言。今春からは「愛国心」など教育基本法の教育目標にてらして「重大な欠陥」があると国が判断すれば、教科書を検定不合格にできる仕組みをつくりました。

 下村博文文科相は「採択された教科書の記述を見ると、改正した教育基本法にのっとった記述になっていない」と攻撃。戦前、軍国主義教育の中心に置かれた「教育勅語」を「至極まっとう」と評価し、「何かがあった時には、国のために守ろうというのは国民にとって当たり前」と言い放っています。

 しかし、教育委員会の多くは安倍首相が賛美する教科書を採択していません。沖縄県竹富町では、改憲に誘導する危険な育鵬社版の公民教科書を採択しませんでした。これに対し下村文科相は無法な「是正要求」を出して押し付けようとしましたが、竹富町はきっぱり拒否しています。

 政府案では、首長が任命する新教育長を教育委員会のトップに置き、首長が定める教育行政の大綱に「愛国心教育の推進」と盛り込めば、教育委員会に具体化を迫ることができる仕組みが盛り込まれています。

競争主義持ち込み

 もうひとつのねらいは、異常な競争主義の持ち込みです。

 第1次安倍政権が始めた「全国学力テスト」は“点数競争”を引き起こし、テスト対策学習を行うなど教育をゆがめてきました。しかし、全国的に各学校の平均点を公表し、競争させるところまでは至っていません。

 安倍首相は、学力テスト結果公表で「保護者に学校選択の指標を提供できる」(著書『美しい国へ』)と競争主義が持論。第2次内閣では、抽出調査だった学力テストを「しっかい調査」(全員調査)に戻すとともに、「序列化や過度の競争」を理由に学校ごとの平均点公表を禁じた国の方針を変更させ、自治体の判断で公表可能にしました。

 首相が「全国的な状況との比較により指導に生かすことが重要」と結果公表を迫るなかで、一部の首長は、学校別の成績公表の実質義務化(大阪・橋下徹市長)など競争をあおりたてています。

 しかし、文科省の調査でも「地域の序列化につながる」「学校でテスト対策に偏った授業が行われる」として市町村長、市町村教育委員会、学校の8割が、各学校の結果公表に反対しています。

 静岡県では川勝平太知事が昨年、下位100校の小学校長名を公表すると発言。これに対し県教委が反対し、全国平均点以上の86校の小学校長名を公表するにとどまりました。

 政府案では、首長が任命する新教育長が教育委員会のトップに座ります。教育委員会から独立性を奪い、国と首長の支配を強化して「全国学力テスト」にもとづく競争主義体制をつくろうというねらいは明りょうです。