主張

川内原発優先審査

「安全神話で再稼動」は許せぬ

 全国で停止中の原発の再稼働を急ぐ安倍晋三政権の意向を受け、原子力規制委員会が新しい規制基準に適合するか審査している10原発17基のうち九州電力川内(せんだい)原発(鹿児島県薩摩川内市)の1、2号機を優先すると決めました。事実上“合格”させると約束したのも同然です。安倍政権は規制基準に適合すると認められた原発は再稼働させると繰り返しています。しかし規制基準自体適合したからといって「安全」といえるものではありません。事故が起きた場合の住民の避難計画さえ整っていないのに原発を運転するのは国際的なルールに照らして許されません。

火山対策も「想定外」

 原発の新しい規制基準は、東日本大震災のあと、原子炉が破壊され深刻な放射能漏れを起こした東京電力福島第1原発のような大事故を繰り返さないよう、これまで「想定外」だった地震や津波にも耐えられるようにと見直されたものです。しかし福島原発の事故自体まだ継続中で事故原因も明らかになっておらず、どんな基準を満たせば「安全」なのか判断できるはずがありません。規制委が示した基準を満たしただけで事故が起きないといえないのは明らかです。

 実際、規制委が優先的に審査することになった川内原発にしても、地震でどれほど揺れるのかの基準地震動を大震災前と同じ540ガル(ガルは地震の加速度)から620ガルへとわずかに引き上げただけです。鹿児島県西部にある川内原発は九州にある桜島や阿蘇山、霧島など火山の影響が懸念されますが、九州電力は、破局的噴火の「可能性は低い」と十分な対策はとっていません。規制基準そのものの見直しが避けられません。

 福島原発の事故が証明したように、原発はいったん重大事故を起こせば、地域的にも時間的にも広範な被害を周囲に及ぼします。かつて政府も電力会社も炉心溶融のような過酷事故は起きないとの「安全神話」にとらわれ、福島原発事故を引き起こしました。新しい規制基準さえ満たせば「安全」だというのは、とんでもない新たな「神話」そのものです。

 原発再稼働をめぐって大問題なのは、規制委の新しい基準には事故が起きた場合の住民の避難計画などを審査する基準がなく、防災計画や避難計画は自治体任せになっていることです。政府は原発から30キロ以内の自治体に避難計画をつくるよう求めていますが、作業は難航しており、未策定の自治体が多数にのぼります。原発周辺には多くの住民が暮らします。計画を作らせるだけでなく、住民の避難先や避難路はどうするのか、避難が困難な住民の安全はどう守るのかなど、政府が責任をもった対策をとることが不可欠です。

「5層の防護」は国際常識

 国際的には原発は多重防護でという考えが常識になっており、国際原子力機関(IAEA)は、設計基準の事故を想定した「3層の防護」に加え、「想定外」のシビアアクシデント対策(第4層)や事故で放射性物質が大量に放出されたさいの避難計画(5層)を盛り込むよう示しています。

 福島原発事故を調査した国会の事故調査委員会も「5層の防護」の重要性を強調しました。住民の避難に果たすべき責任も果たさず再稼働に突っ走る安倍政権の姿勢は、まさに国民無視のきわみです。