“アジア戦略・同盟強化に影”
安倍晋三首相による靖国神社参拝(昨年12月26日)について、米国のシンクタンクや政府高官らから年が明けても苦言が呈されています。岸田文雄外相は7日にも訪米しケリー国務長官と会談。オバマ米大統領訪日に向けて両国関係を修復する意向ですが、容易ではありません。 (山田英明)
靖国参拝直後、在日米大使館は「米国政府は失望している」とする異例の声明を発表しました。
1月15日には、キャンベル前米国務次官補がワシントンでの会合で、靖国参拝は「米国の外交政策の助けにはならない」と不快感を表明。ローズ米大統領副補佐官は1月29日の記者会見で、「歴史認識をめぐる懸念について、すべての首脳は一定の配慮を見せるべきだ」と語りました。
意向無視され
相次ぐ「失望」表明の背景に何があるのか―。
米国はアジア太平洋地域を重視する戦略的「リバランス」(再配置)の中で、伝統的な同盟国である日本・韓国に加え、中国とも「新しい大国間関係」を築こうとしています。
昨年12月のバイデン米副大統領の日中韓歴訪はそうした考えのもと、領土・歴史問題で冷え込んだ日中、日韓関係の改善を図ろうとするものでした。ローズ氏は前出の記者会見で、「(バイデン氏は)歴史的な懸案事項に気配りを示すことを日本、韓国、中国に助言した」と解説しました。安倍氏はこうした米国の意向を無視したのです。
さらに、米国の外交シンクタンク・外交問題評議会で日本担当シニア・フェローをつとめるシーラ・スミス氏は、昨年12月30日付の論文で、靖国参拝は「安倍内閣が北東アジアにおいて危険な存在だと見られることで、信頼を低下させる」と強調。「これまでは歓迎されていた日本による安全保障政策の刷新が、注意が必要なものとして見られる」と述べ、日米同盟強化への影響を懸念しました。
加えて、米シンクタンクのスティムソン・センターの辰己由紀主任研究員は、1月7日付の雑誌『ウェッジ』に寄稿した論文でこう指摘しています。
「ワシントンでアジア政策に何らかのかかわりに持っている人たちの間では、今回の総理による靖国参拝は大問題として認識されており、安倍総理を見る目は格段に厳しくなっている」「米国では、靖国神社とは、(米国のアーリントン墓地とは異なり)戦前の日本の行為を正当化する象徴的存在なのだ」
靖国神社は、日本による侵略戦争の象徴であり、この神社への首相の参拝は過去の侵略戦争否定の上に成り立つ戦後の国際秩序への挑戦であるのです。
釈明通用せず
安倍首相の靖国参拝後、政府は釈明に追われています。
世界経済フォーラム(ダボス会議)で安倍首相は「国のためにたたかった人々に敬意をもってお祈りしただけだ」と語り、岸田文雄外相はミュンヘン安全保障会議(ドイツ)で「日本は歴史を直視し、先の大戦や植民地支配について反省の気持ちを明確に表明している」と語りました。しかし、米国を含む国際社会では、そのような理屈は通用しません。
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