昨年来の安倍晋三首相の言動に対して、米国政府やメディアからの批判がとまりません。同盟国である米国が、日本の首相の靖国参拝に「失望」という強い言葉を使って批判するのは異例のこと。「時代錯誤」「歴史を書きかえる」などの批判から見えてくるのは、首相の言動は各国が戦後築き上げてきた国際秩序と相いれないとする立場です。
アジアの新たな問題国に
批判や論評で触れられているのは、首相が参拝した靖国神社は第2次大戦でのA級戦犯が合祀(ごうし)され、侵略戦争を正当化する象徴的存在であるということ。そこへの参拝は大戦で大きな被害を受けた中国、韓国の批判を巻き起こし、近隣諸国との緊張が高まるというものです。
ヘーゲル米国防長官は4日、小野寺五典防衛相と電話会談し、近隣諸国との関係改善措置をとるよう強調。それに加えて、「地域の平和と安定という共通の目標に近づくための協力推進」を求めました。
これより先の2日、米国務省のハーフ副報道官は、新藤義孝総務相が安倍首相に続いて靖国神社を参拝したことに関連し、「われわれは日本に対し、近隣諸国と共同して対話を通じた友好的な方法で歴史(認識)をめぐる疑念を解消するよう働きかけ続ける」と表明。首相や閣僚の靖国参拝が、米国にとって見逃すことができない問題であるとの認識を改めて示した形となりました。
米国の同盟国、日本について、ニューヨーク・タイムズ昨年12月27日付は、「日本は安定した同盟国になるどころか、中国との論争が原因で、米国高官にとってアジアの新たな問題国になってしまった」と厳しく批判しました。
極右的な偏向した解釈
「(靖国神社に祭られている)戦没者には、大日本帝国軍の暗黒時代を象徴する東条英機元首相ら14人のA級戦犯も含まれる。安倍首相の靖国参拝は、中国、韓国、米国という奇妙な連合による批判を招いた」と分析したのは、有力経済紙ウォール・ストリート・ジャーナル社説(12月28日付)です。
同社説は、安倍首相の靖国参拝の結果、米国の同盟国間の協力を損なうことになり、「外交的不和がもたらす影響は極めて大きい」と表明。日本の一部有力政治家の個人的信条で、「慰安婦」や戦時の残虐行為についての真実をごまかし続けるのは問題であるとし、「真実を損なう行為により、同じ志の国が平和で自由な地域秩序を推進できなくなる時、日本にとって戦略的負担となる」と指摘し、外交的にマイナスであることを強調しました。
同紙27日付には「東アジアの主要な自由主義国は反目しあい、共通の懸念である北朝鮮問題で協力できない状態となっている」と懸念を表明する論評もありました。
靖国神社にある軍事博物館「遊就館」について、米誌『アトランティック』2日付電子版は、20世紀の出来事をめぐり「日本を被害者」とする「信じられないほど偏向した解釈を提示している」と報じました。
さらに遊就館を訪ねた欧米人の「(展示内容は)極右陣営の観点から戦争(の歴史)を書きかえたのも同然だ」「中国人や韓国人だけではなく、ほとんどだれもが不快に感じるだろう」との声を紹介しました。
7日ワシントンで開かれたケリー米国務長官と韓国の尹炳世(ユンビョンセ)外相との会談後の会見でも、尹外相は「歴史問題が北東アジア地域の和解と協力を妨げている」と語り、名指しは避けながらも、安倍首相の靖国参拝を批判しました。
戦後体制否定の危険な構想
米国のメディアのなかで、安倍政権の体質について、「時代錯誤的」「戦後民主主義を清算する」という批判が目立つようになったのは、昨年12月の秘密保護法強行前後からです。
ニューヨーク・タイムズ12月16日付社説は、安倍首相が秘密保護法によって日本を作り変えようとしている方向について、「国民に対する政府の権限を拡大し、個人の権利の保護を減らすことを構想している」と指摘。さらに「安倍氏のねらいは、『戦後体制からの脱却』である」「それは時代錯誤的であり、同時に危険なビジョンである」と批判しました。
秘密保護法については、米国の「オープン・ソサエティー財団」の上級顧問で元政府高官のモートン・ハルペリン氏が「21世紀に民主的な政府が検討した法律の中で最悪レベルのもの」と指摘しました。
同財団は「秘密保護」と「知る権利」の両立をはかるために作った国際基準、「ツワネ原則」の導入を主導してきました。日本の秘密保護法については、国家の安全保障と国防に関しての国民の知る権利を厳しく制限している点で国際基準にほど遠いと述べ、「深い懸念」を表明しています。
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