主張
経済格差に抗して
公正な社会への前進の予感
世界経済大揺れの発端となったリーマン・ショックから5年余が過ぎ、圧倒的多数の人びとの貧困化と貧富の格差の広がりが世界的に顕著になっています。それを支える市場万能論に立つ弱肉強食の新自由主義を打破することが求められています。足もとの金融危機が薄れる半面で、経済危機からの脱出にとって、人間らしい暮らしの保障が欠かせないとする見方が広がっています。
賃上げ要求広がる
賃金の引き上げや雇用の安定を求める動きが昨年、先進国と途上国とを問わず世界各地で広がりました。厳しい生活を強いられる労働者の抗議を反映しているだけでなく、経済のゆがみをただし、より公正な社会をめざす動きとしても注目されます。
ドイツでは、保守・社民連立政権の誕生にあたって全国一律の法定最低賃金制度の創設が合意され、経営側の反発にもかかわらず、2017年からの完全実施が決まりました。労働組合などが要求してきたもので、00年代初頭にグローバル化を理由に強行された構造改革を押し返すものです。
それは同時に、欧州危機の構造的要因の是正にもつながっています。ドイツで賃金が抑えられ、輸出競争力が欧州で独り勝ちとなったことが、南欧での危機の背景にあると指摘されています。
「国民の99%の声を聞け」の運動を背景にした、米国での最低賃金引き上げの動きも活発です。オバマ大統領は、長期にわたる格差拡大は「アメリカの夢」への脅威だとし、最賃引き上げを後押ししています。そのもとで、カリフォルニア州をはじめ各地で引き上げの動きが広がっています。
拡大する一方の格差を是正すべきだとの見方も一段と強まっています。国際労働機関(ILO)が先月発表した報告は、各国で国内総生産(GDP)に占める賃金の割合が下がるとともに格差が広がっているとし、富裕層は貧困層の犠牲のうえに富を拡大していると指摘しています。「多くの国で上位10%の富裕層による富の拡大は、下位40%の犠牲で成り立っている」との分析です。
からくりを支えるのが、富裕層や大企業がもうけさえすれば、いずれおこぼれがしたたり落ちてくるとする、新自由主義の「トリクルダウン」論です。経済強者を後押しし弱者を切り捨てる主張の打破は、労働者が人間らしい生活を確保するうえで不可欠です。
ローマ法王フランシスコの「トリクルダウン」論批判も、この状況でこそ起きているものです。法王は「トリクルダウン」論を「事実で確認されたことはない」と指摘し、それは経済権力者と資本主義への「粗雑で素朴な信頼」を表すにすぎないと批判します。
政治変革を視野に
中間階層は富裕層と結託して貧困層に対抗し福祉切り下げや低賃金労働を擁護するのか、それとも、貧困層とともに福祉充実、累進課税強化、全労働者への生活できる最低賃金を求めるのか、という「重要な政治問題が提起されている」―「変革の時」と題した先のILO報告はこう指摘します。貧困と格差の是正を求める運動が政治の変革に向かうのは当然です。今年も、公正な社会を求める世界の運動がさらなる成果をあげる確かな予感があります。
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