安倍晋三首相の靖国参拝をめぐるNHK報道に批判が殺到しています。過去の侵略戦争を美化・正当化する靖国神社の問題点にはほとんど触れずに、安倍首相のインタビューをそのまま伝え続けたからです。安倍首相が参拝した26日と、翌27日の「ニュース7」「ニュースウオッチ9」の報道内容を見ると―。
タイミングばかり
「二度と再び戦争の惨禍によって人々の苦しむことのない時代をつくるとの決意を込めて『不戦の誓い』をした」「戦犯を崇拝する行為だと誤解に基づく批判がある」「中国、韓国の人々の気持ちを傷つける考えは毛頭ない」(26日、首相)
「ニュース7」「ニュースウオッチ9」は、26日のそれぞれトップニュースで安倍首相の靖国参拝を報道しましたが、中身は安倍首相のこうした言葉をそのまま流すのが中心でした。
政治記者の解説は「どうして、このタイミングか」という参拝時期に焦点を当てたものばかり。
首相の靖国参拝を視聴者が考える上で不可欠のはずの、「靖国神社に参拝することが、なぜ問題なのか」「神社の歴史や性格はどういうものなのか」「アジア・太平洋戦争を推進したA級戦犯(東条英機元首相ら14人)を合祀(ごうし)している問題をどう考えるのか」―などの事実には、まったくというほど触れませんでした。
両ニュース番組は、靖国報道の多くの時間を割いて中国、韓国、アメリカなど諸外国の反応を報道しましたが、日本自身の深刻な“歴史認識の問題”として向き合うのではなく、あたかも外国が批判するから政治問題化するのだと言わんばかり。
権力監視できない
26日「ニュース7」は、日本共産党の志位和夫委員長の「歴史逆行の本性があらわになった。第2次世界大戦後の国際秩序に対する挑戦であり、アメリカも含めて支持されない。世界全体を敵に回すことになる」とのコメントを伝えたものの、同日の「ニュースウオッチ9」はこのコメントをカット。靖国神社の性格についても「幕末から太平洋戦争までに戦死した軍人や民間人など246万人余がまつられる」などと説明し、A級戦犯合祀の事実にさえ触れませんでした。
翌27日の「ニュース7」「ニュースウオッチ9」は、諸外国からの批判の高まりに対し安倍首相が「戦場で散っていった方々のために冥福を祈り、手を合わす。世界共通のリーダーの姿勢だろう」(27日)と居直ったコメントを無批判に、そのまま報道しました。
首相や政府の見解を無批判に報道するだけでは、国民の知る権利に応え、政治権力を監視するジャーナリズムの役割を発揮することはできません。
安倍政権は今、侵略戦争に無反省なまま、軍事大国化への道をひた走ろうとしています。しかし、NHKの靖国報道を見る限り、こうした事実を積み重ねることで危険な動きに迫る報道姿勢はうかがえません。(佐藤高志)
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