主張

政労使会議

もっとまじめな賃上げ論議を

 法人税を下げてくれたら賃上げを考えるという財界と、賃上げを約束してくれたら法人税を下げるという政府―。安倍晋三政権が開いている政労使会議は、見え透いた茶番劇というほかありません。財界に正面から賃上げを促すことができず、東日本大震災の被災地復興に使う復興特別法人税を前倒し廃止し、その分を賃上げに回してもらうという政府が描いたシナリオ通りです。これだと財界のふところは痛みません。安倍政権は、国民の暮らしを直接応援するまともな賃上げ政策を示すべきです。

保障がない経団連文書

 復興特別法人税は、2012年度から3年の計画で、法人税額に10%上乗せ課税されています。安倍首相は、これを前倒し廃止して企業の負担が減れば、その分が賃金上昇に回ると主張してきました。法人税を減税しても、それだけで賃上げにつながらないことは、過去の経験で明らかです。ましてや被災地復興の財源であり、しかも働くものにたいする25年間の復興特別所得税はそのままにして、企業だけ負担を免除するというのは、まともな政治ではありません。

 賃上げと安定した雇用の拡大は、「デフレ不況」から脱却する決め手です。安倍政権が政労使会議を開いてきたのもそのためです。しかし状況は「アベノミクス」で賃金が上がるどころか悪くなるばかりです。9月分の現金給与総額は3カ月連続で前年同月を下回りました。基本給与は16カ月連続マイナスです(厚生労働省「毎月勤労統計調査」)。

 非正規雇用が36・7%と過去最高になった(総務省「労働力調査」)のも賃金低下の原因です。しかし政府がやっているのは、雇用ルールを破壊して非正規雇用をさらに増やす政策です。国民の所得が増えず、家計消費支出が伸び悩み、「アベノミクス」の行き詰まりが指摘されはじめています。

 11月22日の政労使会議で経団連が、「賃金の引き上げを通じて一刻も早い経済の好循環が実現するよう貢献していく」という文書を出したことをもって、賃上げへの道筋が開かれたと政府はいいます。しかしこれは個別の労使交渉を拘束するものではなく、何の保障もありません。経団連幹部が「賃上げを明記しないと安倍政権がもたない」ともらしたとメディアが書いているように、政権の顔を立てただけだったとみられています。

 生活必需品の物価上昇、来年4月の消費税増税を前にして、こんな安倍政権の姿勢では、国民がたまりません。雇用ルールの強化や最低賃金引き上げなど政府が直接できることをすぐにすすめるとともに、政労使会議に「内部留保の活用で賃上げを」と正面から提起すべきです。これはもっとも現実的で実効ある方向です。

内部留保活用の議論を

 政労使会議には、有識者による「経済の好循環実現検討専門チーム」が報告を提出しています。このなかで日本の企業は90年代から内部留保の蓄積を追求し、その結果、利益剰余金は300兆円を超える水準となったと指摘しています。賃金が低下する現状は「正常とは言えない」として「企業収益を投資や賃金に回して、実需を生み出す時期に来ているのではないか」とのべています。政府と経団連は、内部留保の活用によるまじめな賃上げ議論をするべきです。