「国土強靭化」をキーワードに

 国民に消費税増税を押し付けようとする一方で、「国土強靭(きょうじん)化」をキーワードにして、品川―名古屋間のリニア新幹線の大阪までの全線同時開業や国費投入を求める動きが自民党内などで強まっていることがわかりました。(藤沢忠明)

整備費9兆300億円

 リニア新幹線は、JR東海が9月18日、東京(品川)―名古屋間の2027年開業をめざし、詳細な走行ルートや中間駅の位置を公表しました。14年度に着工予定で、45年をめざす東京―大阪間の全線開業までにかかる整備費用は、車両費を含め約9兆300億円にのぼるという膨大なものです。

建設費膨張も

 JR東海は「全額自己資金でまかない、国の資金は使わない。健全経営を維持しながら完遂する」などといっていますが、都市部の大深度地下トンネルや、山岳部の長大なトンネルの掘削など、予想される難工事などで、建設費のさらなる膨張につながる恐れがあります。

 こうしたなか、関西広域連合(連合長=井戸敏三兵庫県知事)は10月24日に大阪市で開いた知事・市長会合で、リニア新幹線の東京―大阪間の全線同時開業を求める要請書を国に提出することを決めました。

 要請書では、リニア新幹線は「国土強靭化の観点からも極めて重要な社会基盤である」「整備効果を最大限発揮させるためには、大阪までの全線同時開業が不可欠である」と指摘。「国家プロジェクトとして、大阪までの乗り入れを推進すること」と国費投入の必要性を強調しています。

 これに先だって、自民党国土強靭化総合調査会の二階俊博会長(衆院予算委員長)が会長を務める近畿地域選出議員団は同月8日、国費を投入して大阪まで同時開業するよう求める決議文を採択しています。

 ことし7月の参院選で自民党の地方組織、都道府県連がつくった地域版公約をみると、近畿地方の府県連は、「リニア新幹線の大阪乗り入れ実現」(大阪)、「リニア中央新幹線の『京都ルート』の実現」(京都)、「リニア中央新幹線開通と奈良駅設置の早期実現」(奈良)と、いずれもリニア新幹線を掲げています。

 一方、名古屋―大阪間のルートが「奈良市付近」を通るとされるなか、10月28日には、JR京都駅への中間駅誘致を目指す地元経済界や地元行政を後押しする民間団体「『リニアを、京都へ。』京の会」が京都市で結成されました。

住民から不安

 リニア新幹線建設には、トンネル採掘にともなう自然破壊や、強力な電磁波による人体への影響、新幹線の3倍以上といわれる使用電力など、沿線住民はじめ国民から多くの疑問や不安が出されています。こうした声に答えず、「国土強靭化」の名の下に、リニアを推進することは許されません。