主張

「ナチス肯定」発言

国際社会に通用しない暴言だ

 麻生太郎副総理が憲法の改定に関連し、「ナチス」を名指しして「あの手口に学んだらどうか」と発言したことが国内だけでなく国際的に批判を呼びました。ナチスとは、第2次世界大戦前のドイツで独裁政権をつくり、ヨーロッパ諸国などへの侵略やユダヤ人の虐殺(ホロコースト)を強行した勢力です。そのナチスを肯定的に口にすること自体、国際社会に通用しない暴挙です。自民党と安倍晋三政権がねらう改憲が、世界の流れに逆行する危険なものであることを浮き彫りにしています。

撤回しても責任問われる

 国内外での批判の高まりを受け、麻生氏はナチスを例示したことは撤回しました。しかし副総理としてはもちろん、政治家として許されない発言をおこなった事実は消えません。麻生氏と、同氏を副総理に任命した安倍首相は責任を明確にすべきです。

 麻生氏が撤回したのはナチスにふれた部分ですが、ナチスが果たした役割を考えれば、麻生氏がナチスについて肯定的に口にしたこと自体、許されるものではありません。麻生氏の発言を批判した外国のメディアは「全人類を公然と挑発するもの」などと強い調子で非難しています。

 ナチスは戦前のイタリアや日本の軍国主義勢力とともに、第2次世界大戦を引き起こしました。戦後結成された国際連合の憲章は「われらの一生のうちに二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救(う)」ために活動することを明記しています。戦前のナチスや日本の軍国主義を肯定し美化することが、戦後の国際社会で許されないのは明らかです。

 麻生氏の発言は7月29日、都内の講演会でのものです。「ドイツのワイマール憲法もいつの間にかナチス憲法に変わっていた。誰も気がつかなかった。あの手口に学んだらどうかね」―。麻生氏はナチスを例示した発言を撤回したさい「悪い例としてあげた」「誤解された」などと言い訳しました。しかし講演では「わーわー騒がないで…みんな納得してあの憲法変わっている」と、あたかも国民が納得していたかのように主張しました。いいのがれは通用しません。

 ナチスは、政権を取ったあと国会放火事件などをでっち上げ、国会議員を含む共産党員や社会民主党員を徹底的に弾圧し、これらの議員が国会に出てこられないようにしておいて、政権の思うままに政治を動かす悪名高い「授権法」を制定し、事実上憲法を停止しました。国民は「納得した」のでなく封じ込められたのです。麻生氏のことば通りなら民主主義を破壊し独裁を築いたナチスを称賛しているとしかとりようがありません。

自民党改憲案に通じる

 見過ごせないのは、自民党が持ち出している改憲案そのものがナチスの「手口を学んだ」としか言いようのない中身だということです。国会が改憲を発議する要件を「3分の2」以上の賛成から「過半数」に引き下げ、時の政権に改憲しやすくするのもその一つで、「授権法」の発想につながるという批判もあります。憲法9条を改定してつくるという「国防軍」も、ナチスの軍隊と同じ名称です。

 ナチスに通じる改憲をやめさせるためにも、麻生氏らの責任をあいまいにはできません。