「しんぶん赤旗」

労働規制緩和Q&A ―安倍「成長戦略」がねらうもの

2013/07/10 13:05 投稿

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企業利益のため労働者を犠牲に/必要なのは正社員化政策

 安倍首相は、参院選挙で「成長戦略」を重要政策にかかげ、なかでも雇用分野は最重要課題です。いったいどう変えようとしているのでしょうか。

Q 検討されている内容は

A 低賃金・雇用不安定化促進

 Q 検討されているのは、どのような内容ですか。

  企業が労働者を犠牲にもうけをより上げるため、「正社員改革」と称して、低賃金・雇用不安定化、長時間ただ働きをすすめる内容です。非正社員の低賃金を改善する均等待遇や、正社員の長時間労働を規制する政策は一つもありません。

 (1)企業が雇用責任を負わずにすむ派遣労働を無制限に活用できるよう、規制を撤廃する(2)正社員の賃金切り下げ・解雇を容易にするため、転勤や残業などに応じられないことを理由にした限定正社員の雇用ルールをつくる(3)正社員の長時間ただ働きを可能にするため、労働時間規制の適用除外や裁量労働制を拡大する―などです。

 とくに、派遣労働の規制撤廃は、期間制限などについて「根本的な見直し」を年内に具体化するとしており、猶予がありません。他の項目についても、早急に検討を始めるとしています。

Q 派遣法の根本的見直しとは

A 「臨時的・一時的」をなくす

 Q 労働者派遣法の「根本的な見直し」とは、どのような内容ですか。

 A 労働者派遣法は「常用代替の防止」という考え方を根幹にすえています。“正社員を派遣に置き換えてはいけない。派遣は「臨時的、一時的」な場合にだけ活用できる”というものです。いいかえれば、「臨時」の仕事でないなら、企業は直接雇用しなさいというのが、法の立場です。

 規制改革会議の主張は、「常用代替防止」は派遣労働者の保護にはなっていないから、これをなくし、パートや契約社員など他の有期雇用と同じ扱いでいいとしています。

 これは非常識な暴論です。派遣が特別に規制されているのは、派遣が本来あるべき働き方ではないからです。正社員だけでなく派遣を含めた労働者全体を守るためです。

 派遣労働は他の有期雇用とちがい、実際の使用者(派遣先企業)が、雇用責任を負わずにすむ特殊な形態です。企業は労働力が不要になれば、間に立つ派遣会社との契約を切ればすむので、非常に都合のよい働かせ方となります。労働者にとっては、無権利で不安定な状態を強いられます。

 労働力を使う企業が雇用責任を負うというのは、現代社会の当然のルールです。労働者をモノのようにレンタルする働かせ方は、憲法の基本的人権にそぐわず、戦後は罰則付きで禁止されました。

 しかし、大企業の製造現場やコンピューター部門に、“請負”名目の派遣が横行していたため、政府は取り締まり強化ではなく追認します。1985年に労働者派遣法を制定し、例外的に認めたのです。以来、財界の強い要求で、派遣対象が拡大されてきました。

 規制がなくなれば、派遣は増大の一途をたどることは明白です。労働者の生活は見通しが立たず、社会は不安定化してしまいます。派遣労働の規制強化と正社員化への政策こそ、もとめられています。

Q 派遣労働をどう変える

A 半永久的に活用可能に

 Q 具体的に、派遣労働をどのように変えようというのですか。

 A 一つは、「業務区別の廃止」です。現行法では、通訳やソフトウエア開発など専門的な26業務について、企業が期間制限なく派遣労働者を使うことができます。それ以外の製造や一般事務などの業務は、原則1年(労組の意見聴取をすれば3年)としています。この区別を廃止するべきだと主張します。

 もう一つは、派遣期間の制限は業務による規制をやめ、人を単位に転換すべきだとしています。企業は労働者を代えれば、半永久的に派遣労働を活用できることになります。

 これらのねらいは一つです。企業が派遣労働者を制限なく自由に使えるようにするということです。

Q 限定正社員って

A 賃下げ・解雇しやすく

  限定正社員って何ですか。正社員にも影響がありますか。

 A 職務や勤務地などを限定した無期雇用労働者で、賃金や雇用保障は正社員より劣るとされています。すでに限定正社員の制度をもつ企業は増えてきています。しかし、解雇ルールなどを定めていない場合が多いので、正社員より容易な解雇のルール化が必要だ、と政府の規制改革会議は主張しています。

 背景には、安倍首相がいう「雇用の多様性、柔軟性を高める」目的があります。正社員が基本の働き方ではなく、それ以外の雇用形態を中心に、労働者の移動をすすめるため、解雇しやすくするのです。

 正社員なら、企業は配置転換等の努力をしなければなりません。しかし、これが制度化されると、現在、正社員でも転勤や恒常的な残業ができないことを理由に、限定正社員に変更され、賃金が切り下げられる恐れが十分あります。いま担当している業務がなくなれば、解雇されます。

 現在、転勤経験のない正社員は、幹部候補など一部を除くと、かなりの労働者が該当するでしょう。転勤予定がない正社員を巻き込んで、賃金や労働条件の切り下げが大規模にすすめられかねません。

Q 有期労働者には改善?

A 雇用不安は解消せず

 Q 限定正社員は有期労働者にとっては改善なのでは?

 A いままで短期間の契約で更新のたびに不安にさらされてきた有期雇用の人たちにとって、一定の不安は解消されるかもしれません。しかし、これまでの働き方では限定正社員になれないでしょう。他の有期雇用とは区別され、正社員並みの働き方が要求されるからです。一方、賃金について、均等待遇など実効性ある改善策はありません。

 すでに限定正社員を制度化しているユニクロなどの企業をみると、責任が重くなって残業は増大したが、残業代を請求できないなどの現状が報告されています。賃金はアルバイト時代と変わりなくわずかな一時金があるというケースが多く、低賃金のままです。

 雇用は正社員のようには保障されず、現在担当している仕事がなくなれば、解雇可能などとされています。職場の部門再編や事業所閉鎖などは、近年頻繁に実施されており、そのたびに雇用不安にさらされます。

 つまり、企業は熟練の有期雇用労働者を低賃金のまま、期間制限なく使うことができ、不要になったら容易に解雇ができる制度を手に入れるといえます。

 現在、労働契約法では、有期雇用は最長で5年を超えて雇用したら違法になり、労働者の申し出で無期雇用に転換されます。また、反復更新されていると、簡単に雇い止めはできなくなり、正社員に準じた解雇ルールが適用されます。

 新制度をつくるなら、より短期間で無期雇用化されるよう、現行法を改正、強化することこそ、雇用安定化につながるのではないでしょうか。

Q 「裁量労働制」見直し必要?

A 長時間労働・ただ働き容易に

 Q 企画型裁量労働制は、手続きが面倒で使い勝手が悪いと企業がいいますが…。

  裁量労働制は、8時間労働制の例外を認める制度です。実際に働いた時間ではなく、あらかじめ労使が決めた時間を働いたとみなすため、長時間労働の歯止めとなる残業代も不要になります。

 対象となる業務は、労働者が自分の裁量で仕事をすすめる必要がある場合などに限られます。導入手続きは、労使委員会の5分の4の賛成が必要などの要件があります。

 これらは、長時間労働を強いられないよう労働者の健康を守るために必要な最低限の仕組みです。使い勝手が悪いというのは、残業代不要の長時間労働をもっと簡単にさせたいという企業の口実です。

 さらに、“過労死推進法案”“残業代ゼロ法案”と国民の批判を浴びて廃案になった「ホワイトカラー・エグゼンプション」(労働時間規制の適用除外制度)にも言及しています。この制度を裁量労働制と「整理統合」するなどとし、導入への執念をみせています。

 労働時間規制の改悪は、参院選挙後の秋以降に本格的検討をすすめるとしています。

 一方、国連は5月、日本政府にたいし、長時間労働を防止する法的措置をとるよう勧告しています。国際的批判を省みることなく、企業の欲望にすりよって推進する日本政府の姿勢が問われています。

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