安倍首相 ごまかし論議
「国民の年収150万円増やす」
「国民総所得」→すりかえ→「国民平均年収」
安倍晋三首相は、「成長戦略第3弾」で、「10年間で1人当たり国民総所得(GNI)を150万円増やす」という「目標」を打ち出しましたが、各地の演説では、「国民の平均年収を150万円増やす」などと言っています。「国民総所得」と「国民の平均年収」は全く違うものですが、安倍首相は経済学を知らないので間違えたのでしょうか。知っていながら、言葉をすりかえたのなら、意図的に国民をだまそうとするものです。菅義偉(よしひで)官房長官は「首相は分かりやすく説明しようとしたんだろう」などと言っていますが、こんな言い訳は通りません。
GNIとは、国内総生産(GDP)に「海外からの利子・配当の純額(受取マイナス支払)など」を加えたものです。これは、昔はよく使われていた「国民総生産(GNP)」と同じものです。それを、わざわざ国民にとって耳慣れない「国民総所得」という言葉に言い換えているのは、その方が「所得が増える」というイメージがするからでしょう。これ自体、言葉の言い換えで国民をごまかそうという意図が見え見えです。
しかも、安倍首相はGNIを「国民の平均年収」とか「みなさんの所得」とか呼んでいます。これは、単なる「言い換え」ではなく、違う意味に「すり替え」るものです。
「国民総所得=国民総生産」には、賃金などの家計の所得だけでなく、企業の利益や株主への配当、海外からの利子・配当なども含まれています。GNIが増えたからといって、賃金などの国民の年収がそれと同額で増えるわけではありません。
実際、小泉純一郎内閣から前回の安倍内閣、福田康夫内閣の時代の2002年度から07年度の5年間に、1人当たりGNIは約18万円増えましたが、1人当たり雇用者報酬(賃金プラス社会保険料の事業主負担)は2・8万円減りました。増えたのは、海外からの利子・配当(7・7万円)、主に企業の利益である「営業余剰・混合所得」(7・4万円)でした。しかも「雇用者報酬」には、会社役員の報酬もふくまれており、雇用者数の増加による影響も含まれています。それを除いた従業員1人当たりで見た給与年収(厚生労働省「毎月勤労統計」)は、この5年間に16万円も減ってしまいました。
所得奪う政策
本当にGNIを1人当たり150万円も増やそうとすれば、賃金も増える必要があります。たとえば、1980年代の10年間には、1人当たりGNIが155万円増えました。この時期には1人当たり雇用者報酬が75万円増えています。民間給与所得者の平均給与年収は、80年代の10年間で130万円増えました。
逆に言えば、企業の利益が増えるだけでなく、賃金も増えたからこそ、内需が活発化して経済成長が継続し、GNIが155万円も増えたのです。そもそも、GNIの半分は雇用者報酬なのですから、雇用者報酬が増えなければGNIも大きくは増えません。02~07年度には、企業の利益は増えても賃金は減ってしまったため、成長は長続きせず、結局、1人当たりGNIも18万円しか増えなかったのです。
「1人当たりGNI150万円増」を本気で実現するつもりなら、賃金をはじめとする家計の所得が増えるような政策が不可欠です。しかし、アベノミクスには賃金や家計所得を増やす策は何もありません。それどころか、雇用規制のいっそうの緩和など賃金を減らす政策、消費税増税など家計の購買力を奪う政策ばかりです。これでは、「GNI150万円増」という「目標」自体が「絵に描いた餅」となることは確実です。
破綻つくろう
安倍首相は、なぜ、こんなごまかしの議論を持ち出したのでしょうか。それは、アベノミクスの破綻をつくろうためにほかなりません。
アベノミクスは「物価上昇率2%目標」を掲げましたが、賃金が増えずに物価だけが上がれば、暮らしはますます苦しくなります。「景気がよくなれば、そのうち賃金も上がる」と言ってきましたが、頼みの株価も乱高下し、制御不能に陥る始末です。「投機とバブルで景気回復をねらう」というアベノミクスは、暴走を始めた途端に破綻し始めました。
安倍首相は、「これでは選挙を乗り切れない」ということで、新たなごまかしの議論を持ち出したのです。
NHKの世論調査(10日)では、「1人当たりの国民総所得を10年後に150万円増やすことを目標とする経済の成長戦略が、経済の再生につながると思うか」という質問に対して、「つながると思う」はわずか13%にすぎず、「つながると思わない」が33%となっています。
小手先のごまかしでは、アベノミクスの破綻はつくろえません。(垣内亮 日本共産党政策委員会)