行きづまる価値観外交
米中会談と安倍政権
自由や民主主義、人権などといった「普遍的価値」を掲げ、首脳外交を繰り広げてきた安倍外交(表)。価値観を「共有しない」中国を囲い込み、日米同盟を基軸とした優位性を確保しようというもくろみが今、狂いつつあります。
首相自身が弱点
「大国間の新しい関係のモデルをつくる」―。米オバマ大統領と中国の習近平国家主席は7~8日(現地時間)の2日間、米カリフォルニア州で異例の8時間に及ぶ会談でこう語り合いました。両氏は経済、安全保障でも緊密な協力を確認しました。昼食含め1時間半だった日米首脳会談とは別格の扱いでした。
一方、安倍晋三首相は、就任から半年近くたちますが、中国と対話の糸口を見いだせていません。元外交官の小池政行氏はこう指摘します。
「いまだに中国、韓国の首脳と会えていないのは本当に恥ずべきことだ。国際社会での中国の存在は圧倒的であり、良好な関係をつくれなければ国益を損なうことになる」
第1次安倍政権では、最初の外遊で中韓両国を訪問し、中国との「戦略的互恵関係」を打ち出した安倍首相。第2次政権ではいまだに中韓両国を訪問できないのはなぜか。
元内閣官房副長官補の柳沢協二氏が会員制サイト「フォーサイト」1月23日付で、「安倍政権の安保政策『最大の弱点』は安倍氏自身」と指摘し、過去の侵略戦争の責任を否定する安倍首相の特異な歴史認識にその原因があると見ています。
実際に、日本の植民地支配と侵略に「心からのおわび」を表明した村山談話を、「そのまま継承しているわけではない」とか「侵略の定義は定まっていない」(4月22、23日、参院予算委員会)との安倍氏の答弁や、閣僚らの靖国神社参拝で、懸念は一気に表面化しました。こうした言動に、中韓両国から厳しい反応が示され、外交日程は相次ぎ中止されました。
橋下暴言が拍車
これに拍車をかけたのは、「慰安婦は必要だった」とする日本維新の会の橋下徹共同代表の暴言でした。世界中から非難の声があがり、橋下氏は米政府当局者から名指しで非難されています。
さらに、この暴言を、「立場が違う」というだけで一言も批判しない安倍氏に対しても、その立場が橋下氏と同根であることが見透かされています。
アーミテージ元米国務副長官は、「(暴言が)“安倍政権は右翼のナショナリスト政権だ”と宣伝する中国外交を利し、この地域における中国の拡張主義から注意をそらすことになる。われわれ全員にとって有害な発言だ」(5月30日、都内での講演)と批判しました。
国際社会から包囲
その結果、小野寺五典防衛相は6月1日、シンガポールでの第12回アジア安全保障会議で、「安倍政権は、そのような発言や歴史認識にくみするものではない」との異例の釈明に迫られました。
しかし、この釈明でも、橋下暴言の中身への批判はありませんでした。元政府高官はこう指摘します。
「橋下の発言も重大だが、首相が『侵略戦争に定義がない』とする答弁を変えていないことはもっと重大だ。日本の国家観は、侵略戦争肯定の国家観ということになり、近隣諸国とも米国ともあつれきを生むことになる」
“価値観外交”で中国を「包囲」するどころか、逆に国際社会から「包囲」されているのが、安倍外交の姿です。
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