いじめ問題に関わる法制化についての日本共産党の見解
2013年6月3日 日本共産党国会議員団
日本共産党国会議員団が3日、発表した「いじめ問題に関わる法制化についての見解」は以下の通りです。
現在、国会において、いじめ問題に関わる法制化についての各党協議がすすめられています。
日本共産党は、昨年、提案「『いじめ』のない学校と社会を」を発表し、(1)目の前のいじめから子どものかけがえのない命、心身を守り抜くとりくみ(2)根本的な対策として、いじめの深刻化を教育や社会のあり方の問題ととらえ、その改革に着手するとりくみを提唱しました。同提案には、いじめ防止に関する法的整備の検討も含まれています。私たちは、子どもたちの幸せを第一に、その安全と人権を保障する法律を、国民的な検討を踏まえてつくるために努力するものです。
いま国会に提出されている自民・公明案と、民主・生活・社民3党案には、原則的な問題で、見過ごせない点が含まれています。これは私たちだけでなく、少なくない関係者も憂慮しているところです。問題点を率直に指摘し、私たちの提案をおこなうものです。
一、自公案等の見過ごせない問題点
(1)法律で子どもに命令し、義務を課している問題
いじめは、子どもの成長途上で誰にでも生じうるものであり、第一義的に教育の営みとして解決することが基本です。法律で「いじめを禁ずる」として、子どもを服従させるようなやり方は、およそ子どもにたいして社会がとるべき態度ではありません。
ところが、自公案は「児童等は、いじめを行ってはならない」と定め、命令と押さえつけで対応しようとしています。3党案は「何人(子どものこと)も、児童生徒等をいじめてはならない」とし、いじめの放置禁止や通報・相談などの努力義務も子どもに課しています。
法律で定めるべきは子どもの義務ではなく、子どものいじめられずに安心に生きる権利であり、その権利を守るためのおとな社会の義務です。
(2)「道徳教育」の強化の問題
自公案は、「道徳教育」をいじめ対策の重要な柱とし、3党案は「道徳心」をいじめ対策の「基本理念」の一つにしています。
私たちは市民道徳の教育を重視しています。それは、教員、子ども、保護者等が自主的自発的にすすめてこそ実を結ぶものであり、法令で上から押し付けるやり方はかえって逆効果です。また、子どもの具体的人間関係に起因するいじめを防止するのに、道徳教育を中心にすえることは、すでに破たんしつつあることです。
いじめ自殺事件が社会問題となった滋賀県大津市立中学校は市内唯一の国の道徳教育推進指定校でした。同市の第三者調査委員会は「道徳教育の限界」を指摘し、「むしろ学校現場で教員が一丸となった様々な創造的な実践こそが必要」と報告しています。上から「道徳教育」を押し付ければ、「教員一丸の創造的な実践」が損なわれます。
(3)「厳罰化」の問題
自公案は、いじめる子どもにたいする「懲戒」を強調し、慎重に選択すべき「出席停止」を乱発させかねないものになっています。
しかし、いじめる子どもに必要かつ有効なのは、いじめに走った事情をききとり、いじめをやめさせるとともに、子ども自身が人間的に立ち直れるよう愛情をもって支えることです。法律で懲戒を強化、強制するやり方は、子どもの鬱屈(うっくつ)した心をさらにゆがめ、子どもと教員との信頼関係をも壊し、いじめ対策に悪影響をおよぼします。
(4)被害者、遺族等の、真相を「知る権利」があいまいな問題
いじめ事件の隠蔽(いんぺい)は、国民の怒りの的であり、一刻も早い根絶が求められている問題です。そのために被害者、遺族等の、真相を「知る権利」を法的に明確にすることが急がれています。ところが、自公案にはこの問題に言及がなく、3党案は文科大臣が、事案の解明・被害者への適切な情報提供・個人情報の保護の観点から「情報の取り扱いに関する指針を定める」とあいまいです。
(5)家庭への義務付けの問題
自公案は、保護者に「規範意識を養うための指導」を義務付けています。しかし、そうした家庭教育は自主的におこなわれるべきものであり、法律で命じて強制することは大きな問題です。3党案は、いじめや疑われる事実を発見したら「速やかにその解決のための行動」などを保護者に義務付けています。そうした対応は相互啓発のなかで自発的におこなってこそ力になります。法律で義務付け、上からチェックするようなやり方では、かえって家庭が息苦しい場になりかねません。
二、法制化にあたっての日本共産党の提案
私たちは、一で述べた見過ごすことのできない問題点が解決され、子どもたちの安全と人権が保障される法律となることを心より求めるものです。そのために、日本共産党として法制化にあたって、以下の諸点を提案します。
(1)いじめは人権侵害であるということ。
(2)憲法と子どもの権利条約をふまえ、子どもは、いじめられずに安全に生きる権利をもっていること。
(3)学校及び教育委員会をはじめとする行政の、子どもにたいする安全配慮義務。
(4)教育の自主性を大切にしながら、子どもの命最優先でいじめに機敏に集団的に対応する学校の責務。
(5)いじめる子どもへの対応の基本を、いじめをしなくなり、人間的に立ち直るための、徹底した措置とケアとすること。
(6)隠蔽を根絶するために、被害者、遺族等の、真相を「知る権利」を保障すること。
(7)いじめ被害者に対する医療・教育のための予算措置、「35人学級」の完成、養護教諭などの増員など、行政に教育諸条件の整備を義務付けること。
(8)重篤ないじめのケースに対応する、国レベルの「いじめ防止センター」(仮称)を設立すること。
三、超党派で当事者等の意見を聞き、いじめ問題の解決と法案づくりに生かす
いじめ問題の解決のためには、いじめ問題の当事者、関係者から意見を聞き、広い視野をもって協議・審議することが欠かせません。国会において、いじめ被害者団体、教職員や保護者など教育関係者、弁護士、医師、研究者などの意見を聞く場を超党派で適切な形でもち、その知見をいじめ問題の解決にも、法案づくりにも生かすことを提案します。
そのなかで、競争と管理の教育、社会が「いじめ社会」ともいうべき傾向をつよめていることなど、いじめの深刻化の背景にある問題を解決するための議論をすすめることも提案します。