いまメディアで
“民意の行き場”奪ったのは誰か
反省なき総選挙報道
今回の総選挙は、自民党が、政権を追われた前回総選挙より比例で219万票、小選挙区で166万票を減らしながら300近い議席を得るという、民意とかけ離れた結果を生みました。各紙ともにいう「熱気なき圧勝」―それをもたらしたのは何でしょうか。
国民への公約を裏切った民主党への怒りと批判が投票率の低下などを生み、相対的に自民党を浮上させました。各紙が「小選挙区制の特性」というように、自民党が4割の得票で8割の議席を得た小選挙区制度の害悪も露呈しています。
その中で見過ごせないのは、選挙を前後した巨大メディア自身の報道姿勢です。
「朝日」社説(17日付)は“熱気のなさ”の「最大の理由」は「民意が…行き場を失ったことだろう」と書きます。しかし、その一つの要因は、巨大メディアが今回の選挙の構図を“政権の枠組み”選択にあると描き、一貫して「民主か自公か第三極か」という視点で報道したことにあったのではないでしょうか。
目に余る報道
日本ジャーナリスト会議は8日の緊急アピールでマスメディアの今回の選挙報道を、「民主党と自民・公明、それに『第3極』と称するいくつかの保守政党をベースに選挙を描き出している」「すぐに政権に関わらない政党は意味がないかのような『政権の枠組み』報道に終始」していると指摘。加えて「自らによる世論調査で、『勝ち馬』意識を煽(あお)るバンドワゴン効果を広げようとしている」と世論誘導を批判しました。
同会が選挙中にメディアの報道姿勢を批判するのは異例です。それほど巨大メディアの「政権の枠組み」報道と選挙妨害ともいえる「議席予測」報道は目に余るものでした。
「朝日」(8日付)には「世論調査 世論操作に見える日々」との川柳も載りました。
NHKも毎回のニュースなどで枕ことばのように「政権の枠組みが最大の焦点」「政権をかけた攻防」などと表現。ニュースで取り上げる党首の街頭演説風景も、民主、自民、維新、未来に偏っていました。
国政の基本で違いのないこれらの党を中心とした報道は、結局、自民党型政治の枠外にある選択肢、真の対立軸を有権者の目から隠し、政治の変革を求める「民意の行き場」をふさいでいるのです。
「毎日」(17日付)の社会面には、福島県で仮設住宅に暮らす被災者が、原発建設を推進した自民党を選ぶことに抵抗感を持ちながらも「仕方ねえ。自民党しかいれるところがないんだもん」と語り、愛知県の自営業者が「期待はずれだった民主党と寄せ集めの第三極には入れたくなかった」と自民党を選んだことが紹介されています。
選挙後も誘導
にもかかわらず、巨大メディアは選挙後もまったく無反省です。17日夜のNHK番組「政治はどこへ向かうか」では「日本政治の今後を問う」として自民、民主、維新、公明の4党だけを登場させ、今後の政策を語らせました。
「読売」「毎日」「朝日」「日経」各社説(17日付)はそろって、選挙後も民自公3党の枠組みで社会保障と税の「一体改革」をすすめるよう“指図”しています。大手紙自身の社論が民自公路線にあり、民意をそこに誘導しているのです。
これらのメディアは、日本共産党の示す消費税増税に頼らない社会保障拡充政策をまともにとりあげることはありません。消費税を上げながら社会保障は改悪する「一体改革」は国民に閉塞(へいそく)しかもたらしません。
今回の選挙結果を受け「読売」社説は小選挙区制度について「抜本改革に踏み切る必要がある」とし、「日経」は「小選挙区選挙…の見直し論議に火がつくのは必至」とします。指摘はもっともですが、小選挙区制の導入を「政治改革」の名でみずから進めてきたことへの反省が必要です。(西沢亨子)
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