「主権回復の日」「アベノミクス」―安倍内閣の矛盾と破綻をつく
BSテレビ 志位委員長大いに語る
日本共産党の志位和夫委員長は、15日に放送されたBS11番組「INsideOUT」(インサイドアウト)に出演し、政府が主催する「主権回復の日」式典をどう考えるか、憲法改定や安倍政権の経済政策(アベノミクス)をどうみるかなどについて大いに語りました。聞き手は二木啓孝・BS11解説委員、松田喬和・毎日新聞論説委員、アナウンサーの深津瑠美氏です。
番組冒頭、二木氏は4月28日(サンフランシスコ条約=サ条約=の発効の日)に政府が「主権回復の日」と位置づけた式典をおこなうことについて「突然でてきたやにみえる」と発言。沖縄が日本から切り離された「屈辱の日」として反発していることにふれた「毎日」(3月31日付)の社説や、都道府県知事のうち本人が式典に出席するのは19都県にとどまっているとの沖縄タイムス(14日付)の報道を示しながら、志位氏の見解を問いました。
サンフランシスコ条約――「領土不拡大」原則からの逸脱
二木 政府主催なのに(知事)本人出席が19人は意外に少ないと思いますが…。
志位 国民的合意が全くないということを示していると思います。
二木 (テロップで)サンフランシスコ条約の関連の条文をピックアップしました。説明してくれませんか。
志位 いくつか問題点がありますが、第2次世界大戦の戦後処理の大原則は、カイロ宣言、ポツダム宣言で「領土不拡大」――戦争で勝った国も領土を増やしてはいけないということにあったのです。
ところが、(サ条約)第3条を見てほしい。沖縄、奄美、小笠原を米国の施政権におくと規定しています。これによって沖縄などは切り離された。この日を「屈辱の日」と呼ぶのは当然です。
それから第2条C項ですが、「千島列島、樺太の一部を放棄」とあります。樺太は日本が日露戦争でとったものですから、返すのは当たり前ですが、千島列島が問題です。
千島列島は1875年の樺太・千島交換条約で日本領と平和的に確定した領土です。ところが、(ソ連の)スターリンがヤルタ会談で、対日戦に参戦するかわりに、「日本の千島列島を引き渡す」という秘密協定を(米国や英国と)結ぶ。それを(サ条約で)追認して、千島列島を放棄した形になった。これがいまの領土問題の始まりなのです。「領土不拡大」が大原則なのに、ソ連は千島を分捕り、アメリカは沖縄などを施政権のもとにおきました。第2次世界大戦の戦後処理の大原則に反する、大きな逸脱でした。
二木 サ条約は沖縄の問題がどうしても焦点化するが、よく読むと「北方領土」返還問題もここからスタートしている。
志位 千島問題を解決しようとしたら、この誤りを是正し、北千島を含めて日本の領土ですから全部返せという交渉を筋をたててやるべきです。
日本を安保で縛った「従属と屈辱の日」
そのうえで、志位氏は、占領軍が駐留軍と名前だけかえて、米軍として日本に残る根拠条文とされたサ条約第6条が最大の問題と指摘しました。
二木 (6条は占領終了後)「90日以内」に日本から撤退しなきゃいけない。ただし、米軍は違いますよという話になっている。
志位 これはポツダム宣言に反しているんです。ポツダム宣言では、連合国は、日本の民主化、非軍事化の仕事を終えたら、ただちに撤退すると書いてあります。ポツダム宣言に違反して、米軍が居残ると(いう仕掛けをつくった)。
これと一体に結ばれたのが旧安保条約でした。旧安保は、米国が占領下で強権的に奪い取った基地を、そのままそっくり貸与し続けるものでした。4月28日は、サ条約が発効した日でもあると同時に、日米安保条約が発効した日でもある。これを忘れちゃいけないと思います。
沖縄の人たちにとって「屈辱の日」、日本国民全体にとって「従属の日」―「従属と屈辱の日」として、これは祝うべきじゃない。サ条約で一応、形式上は(日本は)独立国になりましたが、他国の軍隊がこれだけ居座っているわけですから、実体的には従属国です。主権を回復したとはいえない。
深津氏は「沖縄の人に思いをはせると、『祝う日ではない』というのはその通りですよね」とコメント。二木氏も沖縄の人たちの苦労を考えずに「主権回復」を祝うところに「デリカシーのなさを感じる」と語りました。
志位氏は、サ条約の後も、「銃剣とブルドーザー」で強引に住民を押しのけ、家をなぎ倒し、基地の拡張が図られてきた沖縄の苦難の歴史を語った上で、次のように述べました。
志位 これ(式典の話)をやるときめたときに、安倍首相は沖縄のことをまったく考えなかったのでしょうか。沖縄の県議会では超党派で抗議決議があがって、抗議集会もやられます。当然そういうことを考えないといけないのに、考えもしない政府は情けないと思います。
松田氏は、サ条約が「苦渋の選択」のなかで沖縄だけに偏重した基地を押し付けた形で日本は独立を果たしてきたと述べ、「罪悪感を日本国民全体が持たないと、なかなか沖縄問題は決着に結びつかない」と語ったことを受けて、志位氏はこう答えました。
志位 この問題は沖縄の人たちにとって「屈辱の日」、日本国民全体にとって「従属の日」だといいました。米軍基地は沖縄だけじゃありません。厚木、横田、横須賀、岩国など、たいへんな被害が本土でもたくさんあります。首都圏に巨大基地をいまでも抱え込んでいる国は日本ぐらいしかないわけです。そういう点で、日本国民全体の問題でもあります。
そして、安保条約を結んだために、沖縄の人たちは日本国憲法のもとに復帰しようと頑張ったのに、1972年に復帰した先は安保条約のもとへの復帰だったわけです。安保条約があったために、沖縄の基地は、結局本土復帰した後も、いまだに解決しない。ですから、沖縄に対する「屈辱の日」というだけじゃなく、日本国民全体を安保で縛ったのが一番の問題だと思います。
ASEANのような平和の地域共同体を北東アジアに
続けて二木氏は、冷戦構造の米軍・沖縄の位置付けと、冷戦後の米軍・沖縄の位置は違うという認識を示し、「そういうなかで、嘉手納の問題、普天間の問題をどうするか、日本側がむしろ発信すべきなんだけれども、なかなかそういうのが見えてこない」と指摘しました。
志位 「米ソ対決」時代は、力対力でしのぎを削るパワーポリティクスが支配するという面がありましたが、それが崩れて世界は変わったわけです。
たとえば、東南アジアには、かつてはSEATO(東南アジア条約機構)という軍事同盟がありました。この軍事同盟は、ベトナム戦争で、東南アジアの人たちが相互に傷つけあうという経験と反省を経てなくなりました。他方、ASEAN(東南アジア諸国連合)ができています。これは軍事同盟ではないですよね。
二木 そうですね。
志位 外部に敵をもたない平和の地域共同体です。それが、東南アジアに広がってきた。ASEANでおこっている平和の流れを北東アジアにも広げていくという発想を持つ必要がある。こういう時代に、まだ軍事同盟に頼っているのは時代遅れだと思いますね。
二木 「憲法番外地」ともいうべき日米地位協定も、問題ではありませんか。
志位 地位協定も本当に大きな問題です。地位協定の前の行政協定のときから一貫した問題で、「全土基地方式」があります。“アメリカがのぞむところ、どこでも米軍基地はおけますよ”という取り決めが行政協定以来、ずっとあるわけです。たいへん屈辱的な内容です。
それから、日本の米軍基地に国外から、米軍がやってくる。たとえば嘉手納基地は、アラスカ、ハワイなどからきます。ところが無通告でくるわけです。日本の嘉手納(基地)から厚木(基地)にいく、こういうのもまったく無通告で勝手に動くわけです。ドイツでしたら、(米軍の部隊がドイツ国内に)入ってくるときも、国内で移動するときも(ドイツ政府の)許可が必要です。日本はまったく自由勝手。こんな植民地的な状態はありません。
「主権回復の日」は改憲論議と一体
「主権回復の日」をめぐって自民党の狙いがどこにあるのかを問うた二木氏。志位氏は、2011年2月に設立した「4月28日を主権回復記念日にする議員連盟」の設立趣意書(資料参照)を提示し、「主権回復した際に、本来なら直ちに自主憲法の制定と国防軍の創設は、主権国家として最優先手順であった」と読み上げたうえで、こう述べました。
志位 ここがキーポイントです。主権回復したら直ちに憲法を変え、国防軍を持つべきで、やらなかったのは問題だといっています。逆にいうと、“主権喪失していた時期につくられた日本国憲法は「占領憲法」だからこれは変えないといけない”という改憲(の動き)と一体に出てきた議論だというところをみないといけないと思うのです。
二木氏は憲法改定を前倒しで進めようとする安倍政権の動きについて、「高い支持率でいけるという判断なんでしょうか」と松田氏に問いかけました。松田氏は「そうでしょうね」と応じたうえで、つぎのような解説を加えました。
松田 しかし、支持率の中身を見ると、安倍さんの思想に共鳴しているコアな部分と、やわらかい支持、軽い支持層という「二重構造」になっていると思います。ですから6割、7割という高い支持率が集まってくるわけで、全部それが自民党イコール安倍さんの思想に共鳴するということではない。昨日の青森市長選、郡山市長選を見てくると、自民党が苦戦しています。“安倍カラー”に対する不安というか不信というか、少し出ているのかなと見ている。
二木氏は改憲の発議要件を緩めて、憲法改定をしやすくする96条改定の動きに言及し、見解を問いました。
志位氏は「96条改定の最大の目標は9条改憲にあります」と指摘したうえで、主権者である国民が国家権力を縛るのが近代の立憲主義の立場だと強調しました。「時の政権が自分の都合のよいように憲法を変えられるようになったら、立憲主義という憲法のあり方の一番大切な部分を大本から壊してしまうことになります」と述べました。
続けて二木氏は、北朝鮮のミサイル問題や尖閣列島をめぐる緊張が続くもとで憲法9条改定の動きについて問いました。志位氏は憲法9条2項があるために、日本がやれない三つのこと――(1)海外に武力行使の目的をもって部隊を派遣する(2)集団的自衛権を行使する(3)武力行使を伴う国連軍への参加――があるということが政府見解であったことを指摘。「これをはずしたら海外で戦争できる国になります。イラクやアフガンの戦争が起こったときに、米国と一緒に戦争し、人を殺したり、戦死者がでたり、こういう国になっていいんですかというのが問われています」と警鐘を鳴らし、次のように語りました。
北朝鮮問題――いかに外交に知恵を発揮するか
志位 北朝鮮、中国の問題も出ました。しかし、これらはすべて外交で解決しなければならないとどの国も思っていると思います。ところが日本政府は外交で解決する方策を、例えば尖閣問題で持っているかというと、持っていません。
北朝鮮問題に対しても、いま米国も韓国も積極的な外交に動いています。日本だけが主体的な外交方針が見えない。外交でいかに抑えていくかということが大事であって、憲法を変えて海外で戦争する話と違うわけです。こういうものを利用して、海外で戦争する国をつくるというのは大間違いだということを言いたいですね。
二木 もっと冷静なところでやらないと、むこうがこん棒を持ったらもっと大きなこん棒を持ちたくなる、そういうような形ではないだろうなと思う。
志位 本当にそのとおりです。北朝鮮問題をとっても、この問題を戦争で解決しようと考えている国はどこにもないのです。米国だって戦争を何とか避けようとして、先日、ケリー国務長官が中国、韓国、日本を回って、“北朝鮮が一歩踏み出すなら対話の用意はある”とシグナルを送っています。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領も、対話の門戸を開けています。
朝鮮半島で戦争ができるかと考えると、できないし、やってはならない。戦争ができないのだったら外交しかない。これはアメリカも韓国もどの国もそう思っています。ここでいかに知恵を発揮するかということだと思います。
「アベノミクス」――政府主導の危険な「投機とバブル」
話題は安倍政権の経済政策(アベノミクス)に移りました。
二木氏がアベノミクスについて「いまのところ、円安にふれ、株高にいき、うまく行っているじゃないのと、そのことが、高い内閣支持率を呼んでいると思う」と述べて、志位氏の認識を問いました。
志位氏は「うまくいっていると言っているのはごく一部です」と指摘し、最近の民放番組が実施した“安倍政権になって暮らしがよくなったと思いますか”との設問に“そう感じる”と答えたのは16%、“感じない”という人が77%に上る実態をあげ、こう述べました。
志位 暮らしが良くなったという実感がない。円安、株高というが、結局どうなっているか。輸入する食料品や原油、原材料が高騰し、家計が苦しく、中小企業が苦しくなる。負の問題が急速にあらわれています。
「大胆な金融緩和」で動いたのは、投機マネーです。これで荒稼ぎしようと動き回り始めた。そこにさらに、日銀が、お金をじゃぶじゃぶ流して、これまでの2倍の270兆円ものお金を銀行に流すといっています。それでどうなるかというと、いま日本の内需が冷え込んでいるために、かりに日銀が、銀行まで資金を供給しても、(銀行は)貸出先がないのです。しかし、銀行はお金を寝かせておくわけにはいかず、運用しないといけない。そこで投機に走るわけです。このやり方は政府主導で「投機とバブル」をあおる「禁じ手」に手を出そうというもので、非常に危険で、実害も出始めている。
「アベノミクス」の正体は「五本の毒矢」
二木 とにかくインフレを起こすと。そのためにサラリーマンの給料をあげて、消費を促進するということでしょうか。
志位 いやいや、そうなっていないんですよ。彼らの「三本の矢」のなかには「賃上げの矢」というのはないんです。政府がひと時、財界に賃上げの要請をしたのは、労働者の要求が強く、共産党も強力に主張したために、一定のことをやらざるをえなくなった結果であって、「三本の矢」のなかに「賃上げの矢」はないんです。
私は、「三本の矢」というが、実は「五本の毒矢」だと(スタジオがどっと沸く)。「第一の毒矢」は「大胆な金融緩和」というが、「投機とバブル」をあおるということですから、大破綻がきますよ。
二木 不動産もあがっていますからね…。
志位 「第二の毒矢」は、「機動的な財政出動」といいますが、やっていることはムダな公共事業のバラマキですから、残るのは借金だけです。
「第三(の毒矢)」は、成長戦略といいますが、「多様な正社員」の名で「首切り自由の正社員」をつくる。それ以外の正社員は、「ホワイトカラー・エグゼンプション」(労働時間規制の適用除外)――「サービス残業」の自由化、残業代を払いませんよというやり方で長時間労働を強いていくと(いうものです)。これが「成長戦略」で言われていることです。
二木 これは実は毒矢ですよと。あとの二つは何ですか。
志位 あと二つは、安倍首相が言わないで隠している「毒矢」です。
「第四の毒矢」は、消費税増税。10%、13・5兆円の負担増です。
「第五の毒矢」は、社会保障の切り下げです。生活保護切り捨てから始まり、医療費負担増、介護の利用料の引き上げ、年金の引き下げなどがすすめられようとしています。
この「五つの毒矢」に国民の所得を良くし、内需を良くする矢は一本もない。デフレ不況の根本原因は何かといえば、働く人の所得がずっと落ち続けていることにある。だから消費も増えず、内需が落ち込む。ここにあるわけです。
二木 そうですね、うん。
賃金を上げ、安定した雇用を増やすことこそ
志位 ですから、賃金を上げる、安定した雇用を増やすということが大事です。そのために、私たちは具体的に、大企業は内部留保、260兆円も持っていますが、「全部使え」といいませんよ、その1%使っただけで、だいたい8割の大企業で月1万円の賃上げができる。それから、非正規も賃上げをやると(いうのが大事です)。
最後に、二木氏は番組での議論を総括して、聞き手の松田氏に「なんとなく、もう一つ曲がり角というか、選択肢の角にきているという感じがしますね」と問いかけました。松田氏も「そうですね。アベノミクスも含めて、経済政策は実感として効果があるかどうかだと思う」と述べました。